アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170111
【晴】《10日の続き》
糸井の家は以前に福田という家だったが、商売の失敗で人手に渡り、福田のおじいちゃんとおばあちゃんは、屋敷裏の物置に住んでいた。
その内におばあちゃんのボケが始まり、おじいちゃんも脳卒中で倒れ、このままでは大変なので、私の父母や近所の人達が相談し、とりあえずおばあちゃんを病院に入れ、おじいちゃんは近所の人達で様子をみる事になったのだが、私が小学校2年生の2月に、コタツの火の不始末から火事を出して死んだ。
おばあちゃんも前後して死んだそうだが、どちらが先だったかよく憶えていない。
間もなく、月のない暗い夜に福田の家(その時には糸井の家になっていた)の前を通ると、家の前の柳の木の下に、おじいちゃんとおばあちゃんがボオッと立っているのを見たという人が何人か出て来て、しばらくは大変な騒ぎになったのを、この辺で知らない子供はいない。
クン坊にしたら、場所が場所だけに他人事ではないのだ。
我が家の前からクン坊達の家の前まで、ほんの数10歩なのだが、そこには真っ黒な闇が立ちはだかって、クン坊だけでなく、そこを抜けて表通りを渡って行かなければならないオブチンとマー公も足が止ってしまった。
「よせよ晃ちゃん、そんな事いいっこなしだよ。ヤベエよ、俺らもここ通れねえよ」
オブチンが嫌がるマー公の背中を押しながら屁っ放り腰になって私に文句を言った。
クン坊とオチ坊は、そんなオブチンを見て今までよりも怖くなってしまったらしく、「晃ちゃん、俺の家の前まで一緒に来てよ。頼むよ頼むよ」と私にしがみついて来るのだった。
私は目の前の真っ暗な闇の中に入って行くなど、たとえ百円貰っても絶対に嫌だったから、「ヤダよ、もう直ぐそばなんだから自分で行けよ」と激しく突っぱねた。
モタモタしていると気配を感じたのか、「誰だいそこにいるのは、クン坊かい、オチ坊かい」と、糸井の母ちゃんが出て来た。
クン坊はその声を聞くと、とたんに元気よく「うん、いま火の用心から帰って来たところ」と、さっきまでワーワー大泣きしていたのが嘘みたいな調子で答えた。
「寒いのにいつまでそんな所で立ち話してるんだい。早く家にお入り」
クン坊とオチ坊が飛ぶように家の方に走って行くのにつられて、オブチンとマー公も遅れまいと走り去って行った。
私も大慌てて家の中に駆け込んだ。http://www.atelierhakubi.com/
糸井の家は以前に福田という家だったが、商売の失敗で人手に渡り、福田のおじいちゃんとおばあちゃんは、屋敷裏の物置に住んでいた。
その内におばあちゃんのボケが始まり、おじいちゃんも脳卒中で倒れ、このままでは大変なので、私の父母や近所の人達が相談し、とりあえずおばあちゃんを病院に入れ、おじいちゃんは近所の人達で様子をみる事になったのだが、私が小学校2年生の2月に、コタツの火の不始末から火事を出して死んだ。
おばあちゃんも前後して死んだそうだが、どちらが先だったかよく憶えていない。
間もなく、月のない暗い夜に福田の家(その時には糸井の家になっていた)の前を通ると、家の前の柳の木の下に、おじいちゃんとおばあちゃんがボオッと立っているのを見たという人が何人か出て来て、しばらくは大変な騒ぎになったのを、この辺で知らない子供はいない。
クン坊にしたら、場所が場所だけに他人事ではないのだ。
我が家の前からクン坊達の家の前まで、ほんの数10歩なのだが、そこには真っ黒な闇が立ちはだかって、クン坊だけでなく、そこを抜けて表通りを渡って行かなければならないオブチンとマー公も足が止ってしまった。
「よせよ晃ちゃん、そんな事いいっこなしだよ。ヤベエよ、俺らもここ通れねえよ」
オブチンが嫌がるマー公の背中を押しながら屁っ放り腰になって私に文句を言った。
クン坊とオチ坊は、そんなオブチンを見て今までよりも怖くなってしまったらしく、「晃ちゃん、俺の家の前まで一緒に来てよ。頼むよ頼むよ」と私にしがみついて来るのだった。
私は目の前の真っ暗な闇の中に入って行くなど、たとえ百円貰っても絶対に嫌だったから、「ヤダよ、もう直ぐそばなんだから自分で行けよ」と激しく突っぱねた。
モタモタしていると気配を感じたのか、「誰だいそこにいるのは、クン坊かい、オチ坊かい」と、糸井の母ちゃんが出て来た。
クン坊はその声を聞くと、とたんに元気よく「うん、いま火の用心から帰って来たところ」と、さっきまでワーワー大泣きしていたのが嘘みたいな調子で答えた。
「寒いのにいつまでそんな所で立ち話してるんだい。早く家にお入り」
クン坊とオチ坊が飛ぶように家の方に走って行くのにつられて、オブチンとマー公も遅れまいと走り去って行った。
私も大慌てて家の中に駆け込んだ。http://www.atelierhakubi.com/