アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170106 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170106

 【曇】
 元旦から毎日一度は餅を食べていても、決して飽きなかったので、母は弟と私に「お前達がいてくれるので本当に助かるよ。何しろまだ茶箱一杯残ってるんだから、一生懸命食べてちょうだい」と言って喜んでくれた。

 私達以外の家族の者が餅を食べるのは三が日位のもので、あとは見向きもしなかった。

 私と弟は、あんな美味いものをなんで食べないんだろうと不思議でならなかったが、その分沢山食べられるから、凄く得をしていたのだ。

 大抵は焼いて醤油をつけるだけで食べたけれど、時には納豆をつけたり大根おろしをつけたりした。

 意外と美味いのが弁当に持って行った餅で、少し多めにつけた醤油がよくしみて、冷たいけれど味が濃かった。

 いつも同じでは可哀想だと、母が大きな鉄ナベいっぱいのおしるこを作って、その中に焼いた餅を入れてくれた。

 つぶあんの田舎しるこだから物凄く美味かった。

 凄い量を作るので、私達が食べたあとは工場のストーブの上に乗せて、上り框にお椀と箸と口直しの漬物を置いておくと、「おっ、しるこだな。一杯ごちそうになるか」とか、結構大人にも人気があって、皆よく食べた。

 私は火鉢で餅を焼いてはナベの中に入れ、おしるこの番を引き受けて楽しんだ。

「へん、しるこだってよ。そんなもの食う奴の気がしんねえよ。しるこ食うくれえならおらあ飢え死にするよ」

 大酒飲みの雨貝さんが、ストーブの上のナベをチラッと横目で睨むと、憎らしそうにそう言って釜場の方に入って行った。

「ハハハッ、あいつには甘いしるこなんて、まるで親の仇と同じようなもんだろうな」

 父が面白そうに話すと、近くにいた職人さん達も愉快そうに笑った。

 私はこんなに美味いものが嫌いな人が世の中にいるという事実が、どうしても信じられなかった。http://www.atelierhakubi.com/