アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170104 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170104

 【晴】《3日の続き》
 仲間内で一番バチさばきが上手と、自他共に認める大屋の奴が、よせばいいのに本格的な樽を教室に持ち込んで、先生に見付からないようにうまく隠してあると言うのだ。

 あんなデカいものを、いったいどうやって持ち込めたのか不思議だったが、実は前の日の夕方に何人かの手伝いを使って教室に忍び込んだのだそうだ。

 あの頃の学校は、夜になると宿直の先生が一人いるだけで、校内も校舎も鍵などかかってないから、入る気があれば自由に出入りが出来たのだ。

 今では全く考えられない事だろうが、学校という場所は、人が己の我欲のために犯してはならない聖域のひとつだったのではないだろうか。

 私達は大屋の勇気ある行動に、皆で最大限の賞賛を送った。

 その日の昼休み、私達は満を持して腕も折れんとばかり樽を打ち鳴らし、喉も破れんとばかり唄い、教室の中はおろか、廊下をうめて舞い踊った。

 これには他の組の連中もびっくり仰天して廊下に飛び出し、ぽかんと大口をあけて四組の方を見るだけであった。

 その様子を肌で感じた私達は、四組が勝ったのを確信すると、興奮のあまり頭のどこかが切れてしまったのか、「ウオーッ」と叫びながら樽を打つ音に合わせて床を踏み鳴らし、廊下を踊りまくった。

「コラーッ、何やってるんだ。その樽どこから持って来た。お前らいい加減にしないか。この馬鹿共が」

 顔を真っ赤にしながら階段を駆け上って来た石黒先生は、近くにいる奴の頭を手当たり次第に小突きながら教室に入って来ると、樽の前でバチを握っていた大屋の両耳掴んで、思い切り上に引っ張り上げた。

「大屋、この馬鹿が。やるに事をかいて樽を持ち込む奴がどこにいる」

 その日私達は職員室に連れて行かれると、嫌というほど叱られて、もう二度と校内で「八木節」をやらない事を誓わされ、外が暗くなる頃に、やっと解放されて帰路についた。http://www.atelierhakubi.com/