アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161227
【晴】《26日の続き》
事の起りは4時間目の授業の時に、「最近の日本は以前に較べて相当に乱れて来ている。犯罪も増えて来ているばかりではなく、普通の人達も昔のような礼儀を失っている人が多いのは残念だ」と先生が話したのを聞いて、山本が「それは民主主義のせいだ」と宮内に話したところから始まったのだそうだ。
山本も宮内も言っている事は全部大人の受け売りだし、だからこそ自分の意見を否定されると、よけいムキになってしまうのだろう。
近所に来る焼きそば屋のおじさんなんか、「日本はあの時無条件降伏なんかしなきゃ良かったんだ。アメ公の野郎が上陸して来たって、武器がなきゃあ、その辺の薪だっぽ持って頭叩き割るか、かまことねえからマサカリでどてっ腹かっつぁばいてやりゃいいんだ。一人がオメエ一人のアメ公をぶっ殺せば、あんな畜生奴らが何百万上陸して来たって、どうって事ありゃしなかったんだ。それがオメエ、こちとらが戦地で死ぬか生きるかって戦争をやっている時に、降伏なんかしちまいやがってよ。だから今の日本がこんなになっちまったんだ馬鹿畜生め」と、いつもこんな調子で私達に喋りまくっていた。
私達はそれが妙に面白くて、そのおじさんが来ると、皆おじさんに議論を吹っ掛けたものだった。
「日本も早く再軍備しなきゃ仕様がねえっていうのに、政府の馬鹿奴らいったい何考えてんだ全く」
「でもおじさん、戦争はもう二度としてはいけないって先生が言ってたよ」
「こっちがしたくなくったって向こうが仕掛けて来れば、戦わねえ訳にはいかねえだろうが。それとも黙ってやられっぱなしでいろっていうんかよ」
「そうならないように努力するのが、平和国家の務めなんだって学校で教わったけど、ちがうの?」
「べらぼうめ、そんな甘っちょろい事ほざいてるから見ろ、今の日本はなめられっぱなしじゃねえか」
という感じで、おじさんと子供達の会話が続くのだ。
昭和20年代は、まさに前時代と新しい時代が交叉する、混沌の時代だったのかもしれない。
旧軍服を普段着にしている人達が、まだ沢山いた時代の師走は今よりもずっと寒かったが、今よりもずっと師走らしかった。http://www.atelierhakubi.com/
事の起りは4時間目の授業の時に、「最近の日本は以前に較べて相当に乱れて来ている。犯罪も増えて来ているばかりではなく、普通の人達も昔のような礼儀を失っている人が多いのは残念だ」と先生が話したのを聞いて、山本が「それは民主主義のせいだ」と宮内に話したところから始まったのだそうだ。
山本も宮内も言っている事は全部大人の受け売りだし、だからこそ自分の意見を否定されると、よけいムキになってしまうのだろう。
近所に来る焼きそば屋のおじさんなんか、「日本はあの時無条件降伏なんかしなきゃ良かったんだ。アメ公の野郎が上陸して来たって、武器がなきゃあ、その辺の薪だっぽ持って頭叩き割るか、かまことねえからマサカリでどてっ腹かっつぁばいてやりゃいいんだ。一人がオメエ一人のアメ公をぶっ殺せば、あんな畜生奴らが何百万上陸して来たって、どうって事ありゃしなかったんだ。それがオメエ、こちとらが戦地で死ぬか生きるかって戦争をやっている時に、降伏なんかしちまいやがってよ。だから今の日本がこんなになっちまったんだ馬鹿畜生め」と、いつもこんな調子で私達に喋りまくっていた。
私達はそれが妙に面白くて、そのおじさんが来ると、皆おじさんに議論を吹っ掛けたものだった。
「日本も早く再軍備しなきゃ仕様がねえっていうのに、政府の馬鹿奴らいったい何考えてんだ全く」
「でもおじさん、戦争はもう二度としてはいけないって先生が言ってたよ」
「こっちがしたくなくったって向こうが仕掛けて来れば、戦わねえ訳にはいかねえだろうが。それとも黙ってやられっぱなしでいろっていうんかよ」
「そうならないように努力するのが、平和国家の務めなんだって学校で教わったけど、ちがうの?」
「べらぼうめ、そんな甘っちょろい事ほざいてるから見ろ、今の日本はなめられっぱなしじゃねえか」
という感じで、おじさんと子供達の会話が続くのだ。
昭和20年代は、まさに前時代と新しい時代が交叉する、混沌の時代だったのかもしれない。
旧軍服を普段着にしている人達が、まだ沢山いた時代の師走は今よりもずっと寒かったが、今よりもずっと師走らしかった。http://www.atelierhakubi.com/