アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161226 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161226

 【晴】
「ちがうもん、日本が戦争に負けて民主主義になったから駄目なんだって父ちゃんが言ったもん」

 山本が口を尖らせて宮内に食って掛かっていた。

「そんな事ねえよ、日本は今は自由になったから、みんな思った事が言えるんじゃねえか。戦争中は自由なんてなかったんだぞ。それがなんで民主主義が悪いんだよ」

 宮内も負けてはいない。

「自由自由って、何でも自由だからって良いもんじゃねえぞ。世の中にはきまりってもんがあるんだから、きまりも守らねえでみんなが好き勝手な事やってたんじゃ、何にもまとまらねえって父ちゃんが言ってたぞ」

「誰が好き勝手が自由だって言ったよ。それはただの自分勝手じゃねえか。おめえの父ちゃんは自由と自分勝手の区別もつかねえんかよ」

「ヘン、そんな事知ってるね。だけど何でもかんでもアメリカの真似してると、今に日本は駄目になるってみんな言ってるもん」

「みんなって誰だよ」

「近所の人達みんな言ってるし、うちのおばあちゃんだってそう言ってるもん」

「何だ、たったそれだけじゃねえか。おめえ、今いっぱいいるって言ったじゃねえかよ」

「うるせえ、テメ馬鹿。テメなんか死んじまえ」

 山本は涙声になって宮内に食って掛かると、やがて顔が真っ赤になり、うわーっと泣き出した。

 これが出ると次は手がつかない程暴れ回るので、この議論は中断して山本から逃げた。

「いったい何の話してたんだよ。宮内おめえ少し理屈っぽいから駄目なんだよ」

「そうじゃねえって、何も俺が先に言い出した訳じゃねえし、向こうが先に吹っ掛けて来たから、俺は思ってる事を正直に言っただけだよ」

 12月は太平洋戦争が始まった月で、山本の父ちゃんにとっては特別の月なのを、私だけでなく皆知っていたのだ。http://www.atelierhakubi.com/