アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161225
【晴】《24日の続き》
聞くとはなしにお姉さんの話を聞いていると、そばで兄の充夫がチャリを入れてふざけている。
話の様子では、電話の相手と一緒にどこかに出掛けるための打ち合わせなのか、何となく浮き立つ気持ちが、私にも伝わって来た。
「ハイまいど…」
外に止った自転車から、白い割烹着に白い帽子の柾木屋の人が、大きなおかもちを持って降りて来た。
「こっちじゃなく母屋の方にお願いしたいんだけど…」
母は出前の人に声を掛けながら土間に降りると、自分も手伝って母屋の方へ歩いて行った。
今日はお客もいないのに、なぜ柾木屋が出前に来たのか、私は不思議に思ったが、自分には関わりのない事だろうと決めつけて、ストーブに当りながらお姉さんの話に耳を寄せていた。
すると兄が私を突付いて目配せをする。
私は何の事か分からずにポカンとしていると、兄は再び私を突付き袖を引っ張って外に連れ出すのだった。
私はまだ事の次第が飲み込めずにいると、兄がそっと耳打ちした。
「今夜はクリスマスのごちそうだぞ」
それでも私にはまだ事情が飲み込めずにいたが、今度は直ぐ上の姉が母屋からやって来て、闇の中から手招きをしている。
(何だろうな今夜は)
私は少し薄気味悪くなったが、とにかく兄達と共に母屋に向かった。
着いてみると、玄関奥のコタツの上に、鳥のモモ焼きやお寿司、果物と見た事もない大きなケーキなどが、文字通り山のように並んでいた。
私はまるで映画の場面の中に入り込んでしまったかのような、信じられない気持ちでいっぱいになった。
「何、どしたの、今日は何の日?」
私は誰に言うとなく大声で叫ぶと、あまりの嬉しさに我が身の置き所を失ってしまった。
生まれて初めてのクリスマスの夜が、こうして始まった。
昭和26年、小学校3年生の冬の事だった。http://www.atelierhakubi.com/
聞くとはなしにお姉さんの話を聞いていると、そばで兄の充夫がチャリを入れてふざけている。
話の様子では、電話の相手と一緒にどこかに出掛けるための打ち合わせなのか、何となく浮き立つ気持ちが、私にも伝わって来た。
「ハイまいど…」
外に止った自転車から、白い割烹着に白い帽子の柾木屋の人が、大きなおかもちを持って降りて来た。
「こっちじゃなく母屋の方にお願いしたいんだけど…」
母は出前の人に声を掛けながら土間に降りると、自分も手伝って母屋の方へ歩いて行った。
今日はお客もいないのに、なぜ柾木屋が出前に来たのか、私は不思議に思ったが、自分には関わりのない事だろうと決めつけて、ストーブに当りながらお姉さんの話に耳を寄せていた。
すると兄が私を突付いて目配せをする。
私は何の事か分からずにポカンとしていると、兄は再び私を突付き袖を引っ張って外に連れ出すのだった。
私はまだ事の次第が飲み込めずにいると、兄がそっと耳打ちした。
「今夜はクリスマスのごちそうだぞ」
それでも私にはまだ事情が飲み込めずにいたが、今度は直ぐ上の姉が母屋からやって来て、闇の中から手招きをしている。
(何だろうな今夜は)
私は少し薄気味悪くなったが、とにかく兄達と共に母屋に向かった。
着いてみると、玄関奥のコタツの上に、鳥のモモ焼きやお寿司、果物と見た事もない大きなケーキなどが、文字通り山のように並んでいた。
私はまるで映画の場面の中に入り込んでしまったかのような、信じられない気持ちでいっぱいになった。
「何、どしたの、今日は何の日?」
私は誰に言うとなく大声で叫ぶと、あまりの嬉しさに我が身の置き所を失ってしまった。
生まれて初めてのクリスマスの夜が、こうして始まった。
昭和26年、小学校3年生の冬の事だった。http://www.atelierhakubi.com/