アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161224 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161224

 【晴】
 午後から降り出した雪が夕方になると激しさを増して、まだ6時を少しまわったばかりだというのに、外はもう深夜のような静けさの中にあった。

 早目に仕事を終えて僅かに残った職人達が、土間のダルマストーブの周りに立って寛いでいる。

 NHKのラジオが、クリスマスイブの特別番組で、ベツレヘムの宿屋の家畜小屋を舞台に起った出来事を、厳かな音楽と共に放送していた時だった。

「こんばんは、すみませんが電話を貸して下さい」

 母屋の隣の柿沼のお姉さんが、傘に積もった雪を落としながら、入口の外に立って声を掛けて来た。

「あら◯◯子ちゃん、早く中に入って暖まりなさい。電話ならいつでも使ってちょうだい」

 母が入って来たお姉さんにお茶を入れながら答えると、「ハイ、すみませんおばさん。これ相変らずの物ですがどうぞ」と茶色の袋に入ったせんべいを差し出した。

 私は内心しめたと思ったが、それを口に出したり、ましてや態度に出したりはしなかった。
そんな事をすれば、あとで必ず叱られるからだった。

 柿沼の家は、おじさんとおばさんがせんべいを作っていて、それがとても美味しかったのだ。

「いつもありがとうね。でもあまり気を使わないようにね」

 母はそう言ってせんべいを受け取ると、お姉さんにお茶とお菓子をすすめ、「電話いつでもどうぞ」と言ってその場を離れた。

 お姉さんは手帳を手に電話台の前に立つと、箱の横についたハンドルをグルグルと2~3回廻し、受話器を耳に当てた。

「もしもし、4523番願います…こちら2100番の乙です」

 しばらくすると相手方に通じたのか、「もしもし◯◯さん、柿沼ですけど××さんお願いできますか。…すみませんお願いします」

 きっと先方にも電話が無いのだろう。多分近所で電話のある家に呼び出しを頼んだのだ。

 しばらくすると相手が着いたのか「もしもし××さん柿沼だけど…」と会話が始まった。http://www.atelierhakubi.com/