アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161223
【晴】《22日の続き》
拝み屋のおばさんは、私の家族の具合が悪くなると、殺した蛇が祟っているとか、昔飼っていた犬の霊が悪さをしているとか、何でも祟りのせいにして憑き物落としの祈祷をするのだったが、私は子供ながら変だなと心の中では思っていた。
しかし、それを口にすると叱られるから親には黙っていた。
私の知っているだけでも、我が家にいた犬や猫が何匹か死んだけれど、皆とても可愛かったし、気立ても良かったから、私達を守ってくれても、決してとりついて悪さをするとは思えなかったし、第一そんな事でいちいち祟られてたら、サンマやマグロ、牛やブタ、ニワトリやイワシの霊に祟られた人で、町中がいっぱいになってしまうのではと真剣に考えた。
父は無論の事、母だって本当のところは心の底から信じていた訳でもないらしく、言わば近所付き合いのひとつとして受け入れていたようであった。
拝み屋のおばさんは、黒くてまん丸なドンチャン眼鏡をかけて、もんぺ姿に白い袖なし羽織を着ていた。
家は直ぐ近くだったので、私は学校帰りに時々おばさんの家の前から中を覗いて、大きな祭壇や沢山の供物など、およそ普通の家とは違う異様な雰囲気に、何となく薄気味悪い気持ちになったものだった。
ある時おばさんは自分がガンになった事を知ると、医者の治療を一切断り、怖れ気もなく自分の祈祷力で治してみせると公言して、昼夜を問わない祈祷三昧に入った。
しかし、おばさんは日に日に痩せ細って、水を口にしてさえ吐くようになってしまった。
おばさんを気遣った母は毎日のように見舞いに行ったが、おばさんは「カツ丼とうな丼が食べられたら、もう何にもいらない。ラーメンとかけそばが食べられたら直ぐ死んでもいい」と、口から出る言葉は食べ物の事だけだったそうだ。
おばさんの祈祷の力は、ガンには勝てなかったようだ。http://www.atelierhakubi.com/
拝み屋のおばさんは、私の家族の具合が悪くなると、殺した蛇が祟っているとか、昔飼っていた犬の霊が悪さをしているとか、何でも祟りのせいにして憑き物落としの祈祷をするのだったが、私は子供ながら変だなと心の中では思っていた。
しかし、それを口にすると叱られるから親には黙っていた。
私の知っているだけでも、我が家にいた犬や猫が何匹か死んだけれど、皆とても可愛かったし、気立ても良かったから、私達を守ってくれても、決してとりついて悪さをするとは思えなかったし、第一そんな事でいちいち祟られてたら、サンマやマグロ、牛やブタ、ニワトリやイワシの霊に祟られた人で、町中がいっぱいになってしまうのではと真剣に考えた。
父は無論の事、母だって本当のところは心の底から信じていた訳でもないらしく、言わば近所付き合いのひとつとして受け入れていたようであった。
拝み屋のおばさんは、黒くてまん丸なドンチャン眼鏡をかけて、もんぺ姿に白い袖なし羽織を着ていた。
家は直ぐ近くだったので、私は学校帰りに時々おばさんの家の前から中を覗いて、大きな祭壇や沢山の供物など、およそ普通の家とは違う異様な雰囲気に、何となく薄気味悪い気持ちになったものだった。
ある時おばさんは自分がガンになった事を知ると、医者の治療を一切断り、怖れ気もなく自分の祈祷力で治してみせると公言して、昼夜を問わない祈祷三昧に入った。
しかし、おばさんは日に日に痩せ細って、水を口にしてさえ吐くようになってしまった。
おばさんを気遣った母は毎日のように見舞いに行ったが、おばさんは「カツ丼とうな丼が食べられたら、もう何にもいらない。ラーメンとかけそばが食べられたら直ぐ死んでもいい」と、口から出る言葉は食べ物の事だけだったそうだ。
おばさんの祈祷の力は、ガンには勝てなかったようだ。http://www.atelierhakubi.com/