アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161222 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161222

 【晴】
 小林のおばさんは拝み屋という仕事で、元町を中心に沢山の家に出入りして、色々な悩みの相談相手になっていた。

 我が家にも月に一度は必ず訪ねて来て、カスタネットのような道具と粒の大きな数珠を使って独特の音を出しながら、まるで何かが乗り移ったかのような奇妙な身振りと共に、外の道を通る人にも聞こえるほどの大声で祈った。

 早い時で15分、遅くとも30分位でトランス状態に入り、やがて全身を痙攣させてバタッと倒れると、しばらくの間タタミの上をゴロゴロと転げ廻り、ふいに正座をして話し始める。

 私はそんなおばさんを、少し薄気味悪いと思ってはいたが、なぜか来る度に、その一部始終を見ずにはいられなかった。

 いつだったか私が悪い風邪をひいてなかなか治らない事があり、母はそれを心配しておばさんに拝んでもらった事があった。

 おばさんは私の両手を合掌させると、いつものように拝み始め、やがて物凄い顔で母に向かってこう言った。

「この子には死んだ猫の霊が乗り移っている。多分この子が殺したか、殺されるのを黙って見ていたのだろう。早くお浄めしないと大病を患う事になるぞ」

 私はそんな事があったろうかと必死になって考えたが、どうしても思い当たらない。

 ただ学校の帰りに車に轢かれて死んだ猫のそばを通った事が、一ヶ月ばかり前にあったのを思い出し、それを母に告げると、おばさんは即座に「それだ。その猫がこの子にとりついたんだ」と言ったが、私は正直なところ変だなと思った。

 なぜなら、その猫の近くを通ったのは私以外にも多勢いたし、中には面白そうに棒で突付いた奴さえいた。

 とりつくのなら、そんな奴にとりつくのが先だろうと言いたいのだ。
第一私には自分の中に猫の霊がいるという実感がまるで無いし、もしも、そんな手応えがあるのならかえって面白いから、何も無理して追い出してもらいたくなんかなかった。

 それよりも私は、一向に下がらない熱と体のだるさを、早く何とかしてもらいたい気持ちでいっぱいだった。http://www.atelierhakubi.com/