アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161218 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161218

 【晴】《17日の続き》
 前編の「花の巻」は何とか観ていられたのだが、後編の「雪の巻」に入って間もなく、どうしても起きていられずに、いつの間にか眠ってしまった。

 山場に差し掛かる度に場内が騒然となるので、その時はハッと目を覚まして、少しの間画面に目を向ける。
そして直ぐにまぶたがくっついてしまい、結局終盤の討入りまでの時間を、ほとんど寝て過ごしてしまった。

 しかし、いざ吉良の屋敷に討入るというあたりには、さすがに目が冴えてシャキッとして画面を凝視した。

 場内は感嘆と賞賛のざわめきが続き、最後の「終」の文字が出るまで消えなかった。

 幕が閉まり、場内の照明が明るくなると、ブーというブザーの音が客の背中を押すかのように鳴り渡る。

 いつもの事だが、映画が終わって場内が明るくなる時の気分は、何か物淋しくて切ない。

「アアー、本当に良かった。サア帰りましょう」

 母の声に皆ゾロゾロと席を立って外に出ると、ロビーは中より少し寒かった。

 売店で勘定を済ませている母を待っている私達の脇を、今夜の観客が列をなして通り過ぎて行く。

 板張りの床が、人達の踏足でドカドカと賑やかな音を発てる。

 母がこちらに向かって来るのをみとめた私達も、列に乗って劇場の外に出ると、兄達や他の人達が入場券売場の前で待っていた。

 父のそばに行って顔を見ると、明らかに涙の跡がある。
私は父の涙を見た事がないので、その時は何か見てはならないものを見てしまった気がして、急いで父のそばを離れた。

 外は強い空っ風が吹いていて、体の芯まで凍えるほど寒かった。http://www.atelierhakubi.com/