アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161217
【晴西の風】《16日の続き》
夜の部は6時半から、まず内外のニュースと次回の予告編の上映から始まった。
午後7時頃に本編がスタートすると、私の隣にいた母は、「サア始まるよ」と、誰にともなく言いながら居ずまいを正した。
場内に緊張と期待を込めた「フウー」というざわめきが湧いて、待ちに待った大「忠臣蔵」のオープニングである。
父も母も、そして兄達や他の人達も、画面を見ながらいちいち「ウーン」とか、「チキショーめ」とか、「テメエ引っ込め」とか、うるさくて仕方がない。
ヒロやんは怒るだけでなく、「オーン、オーン」と声を殺しながら泣いたり喚いたりで、私は恥かしくて仕方がなかった。
姉達はそんな私達とは遠く離れて、まるで関係のない人間のような振りをしている。
上映中ほとんど間なく、物売りの人が通路を行ったり来たりしながら、「おでんに焼きイカ、アンパンにキャラメル、オセンベはいかがですか」と声を掛ける。
どういう訳かタバコは売ってないので、切らした人は木戸に断って外に出て買って来る。
あの頃は禁煙ではなかったから、場内は多勢の人達がはき出す煙が充満し、それに映写機からスクリーンに投射される光線が当って、頭上は直線のオーロラのようだった。
「ネーネー、忠臣蔵ってどういう意味?」
少し飽きてきた私は、夢中で銀幕に見入っている母の袖を引っ張りながら尋ねた。
「うるさいね、静かにしてなさいよ、今一番良い場面なんだから」
母は私の質問など聞く耳を持たなかった。http://www.atelierhakubi.com/
夜の部は6時半から、まず内外のニュースと次回の予告編の上映から始まった。
午後7時頃に本編がスタートすると、私の隣にいた母は、「サア始まるよ」と、誰にともなく言いながら居ずまいを正した。
場内に緊張と期待を込めた「フウー」というざわめきが湧いて、待ちに待った大「忠臣蔵」のオープニングである。
父も母も、そして兄達や他の人達も、画面を見ながらいちいち「ウーン」とか、「チキショーめ」とか、「テメエ引っ込め」とか、うるさくて仕方がない。
ヒロやんは怒るだけでなく、「オーン、オーン」と声を殺しながら泣いたり喚いたりで、私は恥かしくて仕方がなかった。
姉達はそんな私達とは遠く離れて、まるで関係のない人間のような振りをしている。
上映中ほとんど間なく、物売りの人が通路を行ったり来たりしながら、「おでんに焼きイカ、アンパンにキャラメル、オセンベはいかがですか」と声を掛ける。
どういう訳かタバコは売ってないので、切らした人は木戸に断って外に出て買って来る。
あの頃は禁煙ではなかったから、場内は多勢の人達がはき出す煙が充満し、それに映写機からスクリーンに投射される光線が当って、頭上は直線のオーロラのようだった。
「ネーネー、忠臣蔵ってどういう意味?」
少し飽きてきた私は、夢中で銀幕に見入っている母の袖を引っ張りながら尋ねた。
「うるさいね、静かにしてなさいよ、今一番良い場面なんだから」
母は私の質問など聞く耳を持たなかった。http://www.atelierhakubi.com/