アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161213 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161213

 【晴】
 師走の餅つきは、家中総勢で一日がかりの大仕事だった。

 父母や兄達、そして10人余の勤め人達が、朝早くから夜遅くまで搗きまくっても、全部を終わらすのは大変なくらい、大変な量の餅を搗くのだから、それはもう近所を巻き込んでの一大イベントになっていたのだ。

 我が家の分は約一俵、そして勤めている職人達の分、隣近所の頼まれ分、合わせると五俵近い量になる。

 釜場の大釜の上には六段重ねの角セイロが湯気を吹き、もち米のふける良い匂いが立ち込めて、皆の気分を弥が上にも浮き浮きとさせて、まるで祭のような賑わいだった。

 冬休みに入っている子供達は、その日のほとんどを工場の中で過ごした。

 セイロのもち米が臼の中に入れられる度に、「ホレッ」と一握りづつ順番に貰えるのが楽しみだったのだ。

 搗きたての餅も美味しいが、蒸したてのもち米は甘くてあったかくて、とても美味いものなのだ。

 20人近い子供達がたむろしていても、100臼以上搗くのだから、全員が腹一杯になってもまだ余るほどなので、何臼かおきに作られる餡ぴんと呼ばれる甘い餡ころ餅や、大根おろしをまぶしたからみ餅が食べられなくなっては大変とばかり、皆要領良く加減して食べた。

 夜になっても釜場はシャツ一枚でも暖かく、半地下式の炊き口に降りると、そこは洞穴のような不思議な雰囲気で、子供達にとっては、めったに入る事の出来ない場所だった。

 夜も深けて、いつもならとっくに床に入っている時間なのに、皆目を擦り、一分でも長く起きていようと必死だった。

 それでも、絶えず耳に飛び込んで来る大人達の笑い声や楽しそうなさんざめきを聞いていると、いつの間にかコックリコックリと舟を漕いでいた。http://www.atelierhakubi.com/