アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161210 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161210

 【晴】
 まだそれほど遅い時間でもなかったが、朝からの曇り日のために、もう夕方になってしまったような気分で遊んでいると、ひんやりと底冷えのする中から、少し薄汚れた姿の虚無僧が一人、まるで湧き出るように近付いて来て、我が家の門口に立つと、子供でも分かる見事な尺八の演奏を始めた。

 毎年木枯しの季節の到来と共に、この辺にはよく托鉢の僧や虚無僧が浄財を求めて門口に立つのだ。

 栄町の清水のおばあさんも、近所ではご詠歌おばあさんとして有名な人で、何人かの仲間と浄財を集めるために、露地を廻っているのを時々見掛けた。
勿論全て恵まれない人達に寄付するための仕事なのだが、虚無僧の中には偽者もいると母から聞いた。

 私達には誰が本物で誰が偽者なのか区別はつかなかったが、どちらにしてもまるで映画の場面のようでカッコ良かった。

 だから托鉢僧やご詠歌のあとをついて行く事はなかったが、虚無僧のあとにはよくついて行ったものだった。

 年が明けてからなら分かるのだが、年末のカラッ風の中を、すり切れた獅子頭を抱えて門付けをしてまわる人の姿は、誰の目にも寒々しく映ったが、そんな人も時々は町内に入って来たのだ。

 まるで怒鳴り散らすかのような大声で「家内安全無病息災商売繁盛」と喚きながら、獅子の口を壊れそうな勢いで開閉して、その家の人を恫喝する事で小銭をせしめる、形を変えた強請なのだが、誰も警察に知らせないで、黙って何がしかの小銭を渡して次に廻した。

 優しさというより、そこまでして金を稼がなければならない人の哀しさを、多分知っていたのだと思う。http://www.atelierhakubi.com/