アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161207
【曇時々晴】《6日の続き》
来る時にヒロやんが落ちた田んぼのそばを過ぎる頃になると、体はすっかり暖まって来たので、顔に当る外気の冷たさがかえって気持ち良かった。
真正面は相変らずヒロやんの大きな荷に邪魔されてよく見えないが、左右の闇は沢山の灯をちりばめて美しく広がっていた。
この辺は北の足尾山系を除いて東西と南に山はなく、昼間通ると見渡す限り田園が広がっている所だから、夜のこんな時間に街道を走る事など一度もなかっただけに、緑町などと比ではない夜気の厚さが身にしみ込んで来る。
私を気遣いながら先を急ぐ三人は、もうほとんど口を開かず、耳に入るのはシャーというチェーンの廻る音と、自転車の車輪が砂利を噛む音、そして三人の少し早い息遣いだけだった。
それらの音が段々とリズムを刻むようになると、私にはそのリズムがとても快いばかりでなく、私の足もそのリズムに合わせて、いつかペダルを踏んでいた。
「足利に入るぞ」
ヒロやんが弾んだ声で教えてくれたので、私は「ウン」と返事をして、遅れていない事を知らせた。
渡良瀬橋にさしかかる頃になると、三人共安心したのか急に喋り始め、時々冗談を言っては高笑いをしながら自転車を走らせるようになり、私もつられて気持ちがほぐれて行くのを感じた。
今泉の土手を下り、新水園の前を過ぎて川万の辻を右に曲り、踏切を渡って人見医院の角を右に入ると直ぐに、乾し場までこぼれている工場の明りが目に飛び込んで来た。
三人が横一列に並んで工場の入口に自転車を止めると、中からの逆光を浴びて大きな影法師になった。
仕事を終えて間もないのか、ほとんどの人達はまだ帰らずにギリ場(糸の束を丸太に通して止め、廻しながら樫のギリ棒で叩きのばしてホツレを取る作業をする所)で寛いでいた。
ギリ場に面した広い板の間の上り框には、多分私達のためのものか、食事の支度がしてあった。http://www.atelierhakubi.com/
来る時にヒロやんが落ちた田んぼのそばを過ぎる頃になると、体はすっかり暖まって来たので、顔に当る外気の冷たさがかえって気持ち良かった。
真正面は相変らずヒロやんの大きな荷に邪魔されてよく見えないが、左右の闇は沢山の灯をちりばめて美しく広がっていた。
この辺は北の足尾山系を除いて東西と南に山はなく、昼間通ると見渡す限り田園が広がっている所だから、夜のこんな時間に街道を走る事など一度もなかっただけに、緑町などと比ではない夜気の厚さが身にしみ込んで来る。
私を気遣いながら先を急ぐ三人は、もうほとんど口を開かず、耳に入るのはシャーというチェーンの廻る音と、自転車の車輪が砂利を噛む音、そして三人の少し早い息遣いだけだった。
それらの音が段々とリズムを刻むようになると、私にはそのリズムがとても快いばかりでなく、私の足もそのリズムに合わせて、いつかペダルを踏んでいた。
「足利に入るぞ」
ヒロやんが弾んだ声で教えてくれたので、私は「ウン」と返事をして、遅れていない事を知らせた。
渡良瀬橋にさしかかる頃になると、三人共安心したのか急に喋り始め、時々冗談を言っては高笑いをしながら自転車を走らせるようになり、私もつられて気持ちがほぐれて行くのを感じた。
今泉の土手を下り、新水園の前を過ぎて川万の辻を右に曲り、踏切を渡って人見医院の角を右に入ると直ぐに、乾し場までこぼれている工場の明りが目に飛び込んで来た。
三人が横一列に並んで工場の入口に自転車を止めると、中からの逆光を浴びて大きな影法師になった。
仕事を終えて間もないのか、ほとんどの人達はまだ帰らずにギリ場(糸の束を丸太に通して止め、廻しながら樫のギリ棒で叩きのばしてホツレを取る作業をする所)で寛いでいた。
ギリ場に面した広い板の間の上り框には、多分私達のためのものか、食事の支度がしてあった。http://www.atelierhakubi.com/