アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161206 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161206

 【晴】《5日の続き》
 私はそれを知った時、物凄く損をした気がした。

 それまでココアはコーヒーの出来損ないのような飲み物だと思っていたから、それがあのチョコレートと同じ物だと分かっていれば、もっともっと大切に飲んだからだ。

 それにしても、あの貴重なチョコレートを飲んでしまうなんて、人間というものは信じられないほど罰当たりな生き物かもしれないと、つくづく感じた。

 荷を積み終わった三人が、私を迎えに事務所に入って来たので、お姉さんにお礼を言って外に出た。

 空はすっかり夜になって、吸う息もハンドルを持つ手も冷たかった。

「さて行くべえか。今出れば8時には着くだんべ」

 ヨッさんの声を合図に、私達は自転車にまたがり帰路についた。

 小泉駅を過ぎて道を右にとり、足利に向かって北上して行く内に、私はある事に気が付いた。

 小泉に向かって南下して来た時よりも地平の灯がずっと濃くて、とても華やかな気分にさせられるのだ。

 夜の闇の中を走るのにも関わらず、来た時のような心細さがほとんどなく、暗闇への不安も感じない。
何よりも不思議なのは、来る時よりも道程が短く感じる事だった。

 私は不思議に思って「ヒロやん、この道は来た時と同じ道?」と聞くと、「同じだよ」と教えてくれた。

 今が何時頃なのかよく分からなかったが、その時の私には夜中を旅している恐さなど欠片もなかった。http://www.atelierhakubi.com/