アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161204
【曇のち晴】《3日の続き》
辺りがどんなに暗くても、漂ってくる夕餉の煙の匂いで、まだそれほど遅い時間ではないのと、目には映らなくても人家のある事が分かって、さっきまでの不安な気持ちが薄らいでいった。
「ホラ、そろそろ小泉の町だ。よく頑張ったなあ、もう少しだぞ」
ヒロやんが嬉しそうな声で私に教えてくれたので、視線を前に凝らしてみた。
直ぐ目の前はヒロやんが運ぶ大きな荷で塞がって何も見えないが、斜め横を見ると少し先の空が明るくなっていて、黒々とした森の影の下には、今までとは段違いの灯火が瞬いていた。
私は安堵の余り思わず「ホーッ」と溜息をついてしまった。
間もなく道は砂利道から舗装道路になり、店や人家の並ぶ町中を少し行って、駅の前を過ぎてから最初の角を曲った所の、問屋さんのような店の横から中に入って自転車を止めた。
通りに面した事務所や中の仕事場にも、多勢の人達が忙しそうに働いていて、活気のある雰囲気を作っている。
その中にひたっていると、私はとても安心した気分になれた。
ヨッさん達三人が持ち帰る荷を自転車に積んでいる間、私は事務員のお姉さんに手を引かれて事務所の中に連れて行かれ、ココアとビスケットをごちそうしてもらった。
ココアの味は舌もほっぺたもとろけそうなほど美味かった。
「ボク何年生だ」
奥の一番大きな机に座っている男の人が、手に持った煙草を吸いもせずにとぼしながら言った。
「4年生です」
「そうか、もう家の手伝いが出来るのか。えらいえらい」
そう言ってほめてくれたのだが、私は何だか子供扱いされているような気がして、内心は少し面白くなかった。
「途中転ばなかったか」
「ハイ、大丈夫でした」
「そうか、それじゃおじさんがご褒美をやるから、こっちに来い」
私はご褒美という言葉につられておじさんの前に駆け寄って行くと、おじさんはさもおかしそうに笑って、机の引出しから茶色くて細長い箱を出すと、「ホラこれ持って帰れ、一人じゃなくてお兄ちゃんやお姉ちゃんにも分けてやるんだぞ」と言った。
私はその箱を見た瞬間、(アッ、チョコレートだ)と分かった。
しかも一枚ではなく箱ごとのチョコレートを貰えるなんて、まるで夢のような話だったから、私は何と言っていいかとっさには言葉が口に出来ず、半分気絶したとしか言いようのないショック状態に陥ってしまった。http://www.atelierhakubi.com/
辺りがどんなに暗くても、漂ってくる夕餉の煙の匂いで、まだそれほど遅い時間ではないのと、目には映らなくても人家のある事が分かって、さっきまでの不安な気持ちが薄らいでいった。
「ホラ、そろそろ小泉の町だ。よく頑張ったなあ、もう少しだぞ」
ヒロやんが嬉しそうな声で私に教えてくれたので、視線を前に凝らしてみた。
直ぐ目の前はヒロやんが運ぶ大きな荷で塞がって何も見えないが、斜め横を見ると少し先の空が明るくなっていて、黒々とした森の影の下には、今までとは段違いの灯火が瞬いていた。
私は安堵の余り思わず「ホーッ」と溜息をついてしまった。
間もなく道は砂利道から舗装道路になり、店や人家の並ぶ町中を少し行って、駅の前を過ぎてから最初の角を曲った所の、問屋さんのような店の横から中に入って自転車を止めた。
通りに面した事務所や中の仕事場にも、多勢の人達が忙しそうに働いていて、活気のある雰囲気を作っている。
その中にひたっていると、私はとても安心した気分になれた。
ヨッさん達三人が持ち帰る荷を自転車に積んでいる間、私は事務員のお姉さんに手を引かれて事務所の中に連れて行かれ、ココアとビスケットをごちそうしてもらった。
ココアの味は舌もほっぺたもとろけそうなほど美味かった。
「ボク何年生だ」
奥の一番大きな机に座っている男の人が、手に持った煙草を吸いもせずにとぼしながら言った。
「4年生です」
「そうか、もう家の手伝いが出来るのか。えらいえらい」
そう言ってほめてくれたのだが、私は何だか子供扱いされているような気がして、内心は少し面白くなかった。
「途中転ばなかったか」
「ハイ、大丈夫でした」
「そうか、それじゃおじさんがご褒美をやるから、こっちに来い」
私はご褒美という言葉につられておじさんの前に駆け寄って行くと、おじさんはさもおかしそうに笑って、机の引出しから茶色くて細長い箱を出すと、「ホラこれ持って帰れ、一人じゃなくてお兄ちゃんやお姉ちゃんにも分けてやるんだぞ」と言った。
私はその箱を見た瞬間、(アッ、チョコレートだ)と分かった。
しかも一枚ではなく箱ごとのチョコレートを貰えるなんて、まるで夢のような話だったから、私は何と言っていいかとっさには言葉が口に出来ず、半分気絶したとしか言いようのないショック状態に陥ってしまった。http://www.atelierhakubi.com/