アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161128 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161128

 【晴】《27日の続き》
 土手の上の砂利道は所々に大きな穴があったが、轍に逆らわずに走って行くと、意外に車輪を取られる事もなく前に進めた。

 渡良瀬橋を渡り女浅間と男浅間の間の切通しを抜け、太田街道を少し行って、街道の左手を走る東武線の最初の踏切を左に折れると、八幡様の辻までは道の両脇に人家が続いているが、そこを過ぎると見渡す限りの田園地帯で、遥か南に地平線が横たわっていた。

 右を見ると、太田の金山山塊の上にかかる陽が、間もなく夕暮になる時を知らせるかのように、黄色い光を放っている。

 私は三人の自転車のうしろに必死で食いついてペダルを踏んだ。

 自転車といっても、実際に目に入るのは白い布に包まれた大きな直方体が、右に左に揺れながら、荷の下に車輪をつけて走っている姿だけで、近くにいるとかえって人の気配が切れてしまい、荷物だけが生き物のように走っているような、奇妙な錯覚に襲われたりした。

「そろそろ例幣使街道に入るけど、道がくねくね曲ってるからハンドルとられるなよ」

 ヒロやんが大声で注意する声に、「ウン分かった」と答えると、私はハンドルを握り直して前方に意識を集中した。

「足利を出て邑楽に入るぞ」

 私に教えるためにヒロやんは少し体をうしろに向けたのか、声と同時にヒロやんの荷が大きく左に傾くと、「オー、オー、オー」と悲鳴を上げながら街道脇の草薮の中に突っ込んで行き、必死で立て直そうとする努力も空しく、そのまま横倒しになって下の田んぼに落ちて行った。

「ヒロやんが落っこちた」

 私は前の二人に大声で告げると、何とか倒れずに自転車を止めてスタンドを掛け、薮を掻き分けて田んぼにおりて行った。

 街道から田んぼまでは1mほどの落差があったが、幸いにも薮の下は急ではあったが勾配がついていたので、落下は思ったより強い衝撃にはならなかったようだった。

 それでもヒロやんは荷の下敷きになって動けず、駆けつけた私に、「やっちゃったい」とテレ笑いしていた。

「どしたケガねえか、荷物は大丈夫か」

「全くドジ野郎なんだから、だからオメエはいつも生傷が絶えねえんだよ」

 ヨッさんもハルさんも、そのあとバカだのデレスケと盛んにヒロやんを罵ったが、本当は心配で仕方がないのが痛いほど分かった。http://www.atelierhakubi.com/