アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161127 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161127

 【晴、西の風】
 ヨッさんとハルさんとヒロやんが、さらしの大風呂敷に包んだ絹糸の十二束づつを荷掛けに積んで、これから小泉(現在の大泉町)まで配達に行くと聞くと、私は矢も盾もたまらずに一緒に行くとせがんだ。

 井ゲタに六段重ねて包んだ絹糸の荷は、高さが150cm、一辺が60cmほどの大きさになる。

 それを荷掛けの大きな運搬車と呼ばれる、えらく頑丈な自転車に積むと、走る姿はちょっとした見せ物だった。

 小泉までは自転車で行きは2時間半、帰りは2時間というところだろうが、今出発すると帰りは夜の8時を過ぎてしまう。

 絶対に駄目という母をなだめて、父は私も荷物を運ぶなら一緒に行っていいと言った。

 私はハルさんから二束分けてもらうと、それを自分の自転車に何とか積んで、何度も注意する母の声を背に、三人のうしろについて家を出発した。

 私の前を行くヒロやんの姿は、大きな荷に隠れて全く見えないが、「大丈夫かコーちゃん、もしもひっくりけえったら直ぐ大声出すんだぞ、さもねえと置いてけぼり食うからな」と、大声で励ましてくれ、間をみては「オイ、いるか」と気を配ってくれる。

 緑橋を渡った方が近道だったが、それには土手を二度上らなければならないので、先頭のヨッさんは「無理してぶっくりけってもごはらだから、鉄橋を渡るべ」と、川万の四つ辻を左に折れて渡良瀬橋の方へ向かった。

 私は内心(ああ良かった。土手の坂をのぼるの大変だものな)と、ホッと胸を撫で下ろした。

 それでも、新水園の前を過ぎて今泉土手にさしかかると、道は緩い上り坂になって、三人は立ちコギで坂を上ったが、まだ家から目と鼻の先だというのに、もうこんなに苦しいなんて、先が思いやられて少し不安になった。http://www.atelierhakubi.com/