アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161123 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/161123

 【晴】《22日の続き》
 書庫の北の壁いっぱいに置いてあるガラス戸棚の中には、何やら得体の知れないものが雑然としまってあった。

 高さが1m近くある下皿天秤の隣には、本物か偽物か分からないドクロが、空ろな目を向いてこっちを見ている。

 子供の腕で一抱え程もある水晶の山や、真っ黒な蒸気機関車の模型。

 物凄い量の天保通宝や一文銭の束があるかと思えば、どう見ても内臓としか見えない物が入っている巨大な標本瓶の列。

 天井に近い所には、沢山の図案見本と呉服のポスターが山と積まれていた。

 でも私が一番興味を持ったのは、そこだけは板戸になっている一番下の戸棚の中だった。

 最初はなかなか開けられずに苦労したが、ようやく人一人が入れる位に開ける事が出来た戸の中には、子供用の鉄兜やコルク鉄砲、そして細密な作りのサーベルのオモチャなどが入っていた。

 誰がいつの頃この場所にしまったのか今では謎だったが、もしかしたら当事者は戦争で死んでしまって、この事を知っている人が誰もいなくなってしまったのかもしれない。

 そう思うと、この場所は何か神聖な小塚のような気がして、私は自分が聖所を侵す者に思えて、その時以来書庫に入り込む事はなかった。

 この場所は私が卒業するまで発見される事はなく、その後どうなったのか分からない。http://www.atelierhakubi.com/