朝から良い天気の日だった。空の青と白い雲のコントラストが眩しい。

縁側に腰掛けた私は、大して面白くもなさそうにその青空を見上げて、暫くぼんやりしていた。

こんな日に限って、変に気分を損ねることが起きたりする。そしてそれにいちいち気を取られているのも癪で、先程から私は無視を決め込んでいる。


ぼーっとしてんなら手伝えよな、という兄貴の言葉を聞き流し、私はもう一度携帯を開いた。

問題のメールは受信フォルダの2番目に入っている。アドレス登録した憶えも無い、だからそもそもアドレス欄には名前じゃなく英数字の羅列が入っている筈なのに、そこにはちゃんと佐木なんとかという名前が表示されていた(勿論全く知らぬ名前だ)。

おまけに、内容が一方的で意味不明。

それだけなら無視すれば済むことだったのだが、どうやら自分は昨晩、寝惚けて了解の返事を出してしまったらしい。

向こうはすっかり乗り気のようだし。…正直、うざい。


そしてもう一つ、気になるメールがあった。

受信フォルダの一番上に入っている。こんな陽気の良い日に2つも問題を抱えるなんて、自分はなんて運の無い人間なんだろうかと軽く絶望したくなった。

こちらの差出人は分からない。内容は至って簡潔。


『7年前の契約を憶えていますか?』


それだけ。

はっきり言って、全く憶えは無い。


7年前と言えば、私は15歳だった筈だ。この“契約”とやらは中学3年の時のものか、それとも高校1年の時のものか?どちらにせよ何らかの契約を結んだ憶えは欠片も無い。

とは言え、自分の記憶力が弱いことは重々自覚している。自信を持って確実に「無かった」と言えないのが痛い所だ。



携帯画面と睨めっこしている間に、インタフォンが鳴った。

新聞屋かガス屋か。集金だろうかと思って渋々と重い腰を上げた。兄貴は出そうにない。

玄関へ出る前に、兄貴が声を掛けてきた。


「母さんは今日戻らないって」

「…あっそう」


何となしに、更に重い気分になった。

そして扉を開けると、奇妙な2人組みが現れた。


「…………」

「あの」


予想していた、と言えば確かにそうかもしれない。

中学生と思われるの女の子が2人。片方はさらりと綺麗なストレートの長髪、もう片方は短めの髪。声を掛けてきたのはロングヘアの方だ。

こちらが黙っていると、向こうからおずおずと話を切り出してきた。


「7年前の契約…憶えてますか」


やっぱりか。不思議とそう納得出来る台詞だった。

が、憶えていないものは憶えていない。


「いや、生憎憶えてない。メールくれたの、君達でしょ?」

「はい」

「契約って、何の契約したの?」

「小説…なんですけど」


「小説?」と私は鸚鵡返しに言った。高校1年の時なら物書きの真似事はしていたが、主にやっていたのは餓鬼の落書きの方だ。何だって小説の契約なんて…イヤ、そもそも意味が分からない。


「じゃあ、今何かやってませんか」

「何かって、……別に」

「ちょっと失礼」


大きな影が玄関前に立った。2人の少女がさっと脇に避けると、男はこちらを見下ろして視線で「どけ」と言ってきた。

不機嫌な視線で出迎えれば、あちらも憐れんだような目で見据えてくる。

くそ、嫌な奴だ。


「…お帰り」

「ああ」


それだけの会話を交わして、私がスペースを空けると男はすっと家の中へ入った。

そこである疑問を持った私は、その後ろ姿に問い掛けた。


「ちょっと、父さんは?」

「もう帰って来ない」

「………あっそ」


どうして、今日はこんなにもイラつくことばかりなんだろう。

それでもきっと、それだけじゃない。こんなに悲しい気持ちになるのは。

私は暫く男の背中を睨み付けて、―――そうして、不意に流れてきた涙を拭った。何だろう。少しでも期待していた自分が馬鹿みたいで、妙に腹が立ってる自分も馬鹿みたいだった。

ああ、馬鹿みたいだ。よりにもよって、ずっと年下の女の子2人の前で泣いてるなんて。見ず知らずの人の目の前で。


「ごめん。何か、よく分かんないからさ…とりあえず、2人共家まで送るから。その間に色々聞かして」


そう言って気まずい顔をしている2人を連れ出すと、家の前にある空き地へ歩いていった。



*****


かなり前に見て記事保存しておいた夢オチをサルベージ。

実際にはこれからまだまだ続くけど、あまりに意味不明で長過ぎるので割愛。

ポップンのジズ氏が出て来たのは記憶に新しい(笑

携帯には内容メモしてあるんで、その内また続きを書くかもしれない。