「交通誘導中の警備員が車にはねられ死亡」というヘッドラインを見たので記事を読んでみた。現場は横浜市保土ヶ谷区境木町の市道環状2号。市道と言っても片側3車線、ストリートビューで見ると近くに横断歩道も信号もなく見通しもいい。ほとんど高速道路のような作りになっていて、車は思い切り飛ばしてきそうな場所である。そこで一番内側の追い越し車線に作業車を止めて中央分離帯の植栽の剪定作業をしていたというのだから、警備員は後続車に車線変更を促す旗(もしくは誘導棒)を振っていたのだろう。そこに車が突っ込み隣の車線に跳ね飛ばされて、更に後から来た車に二度轢きされた。おそらく即死だったろうと思われるが、同業者として同じような場所に立つこともある身としては、悲しいという感情よりもやりきれなさを強く感じる。
まず、最初に思うのはなぜ逃げなかったのだろうという事だ。車は正面からくる。ちゃんと見ていれば危険は察知できたはずだし、すぐ横に中央分離帯がある。おそらく被害者の警備員は直前に目を離していたに違いない。ただ、だからと言って警備員が悪いとはもちろん思わない。ひとつの事に注意を向け続ける、正面からくる車が合図に従ってくれるかどうかじっと注意しながら見ている、それを30分、1時間と続けるというのは、やってみればわかるが簡単そうで、そんなに簡単じゃない。それが高齢者ともなればなおさらである。かっこいい車に目移りしたとか、目の覚めるような美人が運転していたとか、そんな些細なことでも気持ちは切れるし、造園業者の剪定作業現場の場合、作業しながら少しずつ移動する。だから移動のタイミングを見るためにも作業の進行状況を振り返ってみるだろうし、移動に際してカラーコーンや矢印板などの保安資材を持たされることもある。昨日のように天気が良ければ飲み物に手が行く瞬間だってある。
そして、信じられないかもしれないが、道路状況は数秒で激変するのだ。走行車線を走っていた車が作業に気づかなければ、逆に追い越し車線に入ってもうすぐそこまで来てることだってあるだろうし、カーブがあればその向こうから猛スピードで迫ってきてる車だってあるかもしれない。今回の事故はほとんど間断なく車が走ってきそうな現場で起こっている。安心して目を離せる時間なんてあってないようなものだったろう。警備員に一瞬の油断があってもそれを責めることはできない。
作業や工事の現場で後方から来る車に車線変更を促す、それを我々は「幅寄せ」と呼んでいる。交通誘導警備員の事故はこの幅寄せする場所が最も多いと聞いている。死亡者数は毎年10人から20人の間で推移しているようだが、やはりこの位置が最も多いのだろう。警備員の安全について警備会社は自分の身の安全は自分で守れという。事故のリスクは現場によって異なる。リスクの種類も度合いも一様に語ることはできないから「自分で守れ」としか言えないのだろう。しかし、会社にしかできないこともある。契約先である業者が安全のための対策をきちんととっているか、たとえば現場で必要とされる保安資材を十分に用意しているかどうか。保安資材の不備を気にしない業者には警備員は行ってはいけない。会社にはそれをはっきりと言うべきだし、業者に対しそれを要請するのは警備会社として当然の事で、事故のリスクに目をつぶって売り上げを気にする会社であれば警備員を守ろうという気概は皆無と言っていいだろう。
そして、最後は自分で守るしかない自分の安全。まず今回のような幅寄せの現場では、「道路の側端」に立てと教科書は教える。車の正面に立ってはいけない。路肩付近に立って、何時でも逃げられるようにしておけ、ということだ。それと合図を大きく出せという事。いつも気になるのだが、まるで団扇を仰ぐように顔の横で小さく旗を振っている警備員、あれはやらないほうがいい。住宅地の中のあまり車も通らないような現場ならそれでもよかろうが、交通量が多い道路、幹線道路では合図は大きく出すべきで、何より自分がそこに立っている、ここに人がいるんだという事を車にわからせる、そのことのためだけでも合図は大きくするべきだと私は思う。
仕事中、誰とも話をせず黙々と旗を振る。正面から車は来るが、そうは言っても事故なんてめったに起こるものじゃないし、勘違いする輩もいて、そこが一番楽だと思っている。しかし、一番危険な場所でもある。交通誘導警備をやっていて思うことは、この一見退屈な持ち場でも1日気を抜かずに立っていられるかどうか、誘導のどんなスキルよりも、実はそれが一番難しい事だと私は思っている。おそらく、そんな能力をもともと持ってる人間なんていないだろうと思う。自分で鍛えるしかないのだ。
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被害者の方のご冥福を心よりお祈りします。