貴族のお嬢様② | のたっしーのブログ

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一生懸命走ってるしがないボートレーサーです。
なので、不本意ながらその分オッズは高いです。
ブログは公営ギャンブル部門にしてみましたが、特にレースの話は書いてないです、ただの徒然日記です。
ヒマつぶし感覚で流し読みして頂けたら幸いです。

しばらくすると、注文した紅茶や料理が運ばれきたのだが、キッシュだのスコーンだので非常に食べづらそうだった。
それに追い討ちをかけるように上品そうなキッズサイズのナイフとフォークが右側に並べられた。

先程の、わたしも知らない幼少期からのデブエピソードに反撃するように、

「あら、わたしが左利きなの忘れたの?」
とドヤ顔で言うと、
「あ!そうでしたね!失礼しました!」
と慌てて食器を左側に並べ直した。

しかし並べ直してもらっている間に、何とも言えない気まずい空気が流れてしまい
「あっ、すいません、ありがとうございます。あ、ティーカップは右で大丈夫です。はい、いえいえ、すいません。ありがとうございます」と、ドヤっておきながらも最後には見事に撃沈した。

思った通り、キッシュだのスコーンだのは一口サイズに切り分けるとボロボロに崩れてしまい、結局は2口ずつくらいで大口を開けて食べるハメになった。
このままではお嬢様失格だ。

慌てたわたしはひとまずトイレに行く事にした。
腰を上げたものの、そうだそうだ、勝手に出歩いてはいけないんだった。とお嬢様の掟を思い出すとベルを鳴らし、近くにいた執事を呼んで
「すいません、お手洗いに行きたいんですけど」
と言うと、その執事は
「かしこまりました。お花畑にお花を摘みにいかれるんですね」
とわざわざご丁寧に言い直し、導いてくれた。

しかしお花畑にお花を摘みに行くためにフロアからビルの共用スペースのようなところに出ると、お花というよりもツクシあたりが生えてそうな裏口だった。
トイレに入り鏡を見るとそこにはアラサーの女が映っていて、急に現実を突きつけられたような気がした。

用を足し戻ると、言いつけを守ってドアの前に立ち、誰かが導いてくれるのを待った。

若い執事に席まで案内されると、隣の席に新しいお客様、もとい、お嬢様が来られていた。
案内してくれた執事が自分の仕事に戻って行き、手持ち無沙汰だったので隣の席の会話に耳を傾けた。

お嬢様「トロッコの問題あるじゃない?」

恐らく倫理学などで良く聞かれる

線路を走っているトロッコが制御不能に。このままでは、線路上で作業中の5人がトロッコに轢き殺されてしまう。

そしてあなたは、線路の分岐器の近くにいる。トロッコの進路を切り替えれば5人は助かるが、切り替えた先にも1人の作業員が。

5人を助けるために、1人を犠牲にしていいのか? それとも運命としてそのまま見過ごすべきなのか。


という問題のことだろう。
隣のお嬢様は急に
「わたしだったら全員殺す」
と口走った。

え?お嬢様、今なんと??
話している執事も明らかに困惑していた
「わたしだったら、全員殺す」
お嬢様はあろうことか、お嬢様らしくハキハキと2度も口にして下さった。

(サイコパスみたいな事いうお嬢様だな...)
とわたしはおののいていたが、隣の執事はさすがは長年仕えただけあり、
「わたくしは、お嬢様がそんな事しないの分かっていますよ。ふふふ」などと微笑んでいた。

いよいよ居たたまれなくなったところで、Nが伝票をバインダーに挟んで
「お嬢様、そろそろ乗馬のお稽古へ出発するお時間です。モンゴメリが待ってますよ」
とバインダーを差し出してきた。



















































は?モンゴメリ????

...もしかして馬の名前なの?と閃くと、
「モンゴメリのお手入れをしたいから、今日は早めに出発しますね」
とバインダーにお金を挟んで渡した。

会計を済まして帰ってきたNと少し談笑するとNはどうやら関西出身らしく、年末にはステージでお漫才をするそう。

執事として仕えてもらっている間、関西弁やイントネーションなど全く分からなかったので驚いていると、
「ご主人様に、関西弁は禁止されているので」
と切なそうな顔をして言った。

そして、英国の屋敷という設定だったにも関わらず、Nは"寺子屋で数学を教えていた"という謎の過去を口にしていた。

いよいよ出発の時になると、じいやに
「それでは、モンゴメリのところへ行ってきます」と告げると、じいやは思い切り「は?」という顔をした。
そこは統一しといてよ。

執事たちに「行ってらっしゃい、お嬢様!」と見送られながら屋敷のドアを出ると、まだ明るい太陽に照らされさっきまでの出来事は夢なんじゃないかとも思った。

しかし、洋服の袖にはスコーンのかけらが付着しており、あれは決して夢じゃなかったんだと確信した。

そしてそれと同時に、わたしがなれる貴族があるとすれば、好きな時にこういう所に来れる時間と余裕のある独身貴族しかないんだろうな、と痛感した。



〜おわり〜