天国の日々


それは6月の日曜日で、寒くも暑くもない日だった。
僕は、行くところも会う人もいなくて
昼下がりにブラブラ歩いて公園に行った。

本当のところ、
公園に行った、という言い方は正しくない。
部屋の外に出たけど行くところがなくて
公園を通りがかりたまたま立ち寄っただけだ。
というのが本当は正しい。

しかし、この際
情報の正確さなんていうのは
まったくもってどうでもいい。
とにかく、僕は公園に行った。

公園に行っても、
相変わらずすることなんか何もなかった。
子供たちが大勢いて
遊具やらなんやらに群がって
わーわーきゃっきゃと遊んでいるだけだった。

ベンチに座って、
子供たちを見ていると
自分がかつて彼らと同じように
遊んでいたとは到底思えない。
足でも組んでゆったりして、
「あ、ボクここで休んでるから」
とか言ってなかったかと思う。

けどそんなことは言わずに、
明日がないみたいに
ぎゃーぎゃー言っていたんだろう。
何にも憶えちゃいないけど。

僕は子供たちを横目に
ベンチで持ってきた本を
読み始めた。

STEVE ERICSSON の
“TOWERS OF THE BLACK CLOCK”は
現代アメリカを代表する立派な文学作品だが
書いてあることは本当に意味不明だ。
実に読み応えがある。

本を3分の1ほど
読み進んだところで
夕陽が沈みはじめ、
子供たちは服を泥だらけにしながら
帰っていった。
服があんなに汚れているのに、
彼らは実に楽しそうだった。
服が汚れるためにあることを
よく知っているんだろう。

公園から誰も人がいなくなると
だんだんと眠くなってきた。
少しウトウトしていると
公園にまた誰かが入ってきた。

キレイな女の人だった。
あんなにキレイな女の人を見たのは
実に久しぶりだったので
少し見とれてしまった。

彼女はカーキのサブリナパンツに
白い半袖シャツを着て
髪をアップにまとめていた。

彼女は、僕になんか一瞥もくれず
僕の隣のベンチに座ると
ゆっくりと声を立てずに泣き始めた。
沈んでいく太陽の光が
地面の上の彼女の涙を照らしていた。

僕はその光を眺めていた。
本当に美しい光だった。

しばらくすると彼女はベンチから立ち上がり
僕のそばまで来てベンチに座り
僕の肩に寄りかかってまた泣いた。

僕の本とTシャツが、
どこの誰だか解らない
キレイな女の人の涙で濡れていた。

そのまま日が沈むと
彼女は泣きやみ
すでに暗くなり始めた公園から
去っていった。

彼女も僕も一言も
話さなかった。

もう何年も前のことだ。
あれから何年経ったんだろう。
夕暮れの美しい光と
彼女の息づかい。
あの時を思い出すと
頭がクラクラする。

Terrence Malickは1978年に
『天国の日々』(DAYS OF HEAVEN)を撮った。
僕はこの映画より、
美しい風景を観たことはないと思っていた。
何にも憶えちゃいないのに。