診察室の中には、先ほど問診した先生と、メインで担当するらしいメガネをかけた痩せた先生の2名が座っていた。
最初の問診よりも詳しく色々と聞かれる。
「学校でいじめられた事はありますか?」
「不登校になった事はありますか?」
「自傷行為をした事はありますか?」
私がどれも「ない」と首を振ると、メガネの医師はちょっと意外そうな顔をした。
そういう心の傷を抱えた人が多く訪れる場所。
「夜は眠れますか?」 「食事はとれますか?」 それは大丈夫。
私は何となく居心地が悪かった。
いくつか問診を終えると、メガネの医師が、
「声が出なくなるというのは、相当強いショックやストレスが身体にかからないとなりません。
声を出さない事で、身体は心を守っているんですよ。だから今は声が出なくていいんです」
声が出なくてもいい・・・・?
私は意味がすぐに理解出来ず首をかしげ、
『それほどのストレスを自覚していないのですが・・・?
確かに父の事故はショックだったけど、父は順調に回復しているし、なのにどうして声が出ないのでしょう?』
と、書くと、
「自覚が出来ていれば、声が出なくなることはありませんよ。自覚がないのは、心が守っているからです。
人は受け入れがたい程の衝撃を受けると、それを逃そうとするのです。
受け入れると心が壊れてしまうから、あえて身体が無視をしているんです。だから自分ではわからない。
お父さんの事故以外にも何かあるんじゃないかな」
私の心の奥底に何かがある・・・・?
「心が受け入れられる準備が出来たら声は出るようになり、原因となった事も表に出てくるでしょう。
その時はそれと向き合わなければ行けないんです。その時がちょっと辛いと思います」
『怖いです』
「だったら今のままの方がいいかといえば、そうではないんですよ。向き合って乗り越えないと、声が出るようになりません。今は色々な感情が抑え込まれて蓋をされているんです」
『治りますか?』
「治りますよ。お薬を飲んで、早い人で1~2週間。長い人だと数カ月かかりますが、治ります」
薬・・・・・・。
私の表情から察したのか、
「きちんと分量を守って飲んでいれば、依存したりすることはないですよ。緊張を和らげるお薬で気持ちがリラックスする薬なので、そんなに強い薬じゃありません」
『薬を飲む以外に、私に出来る事はありますか?』
「普段通り、生活して下さい。早くしゃべろうとか意識せず、今まで通りに暮らして下さい」
声が出なくなったのは、私の心が壊れないようにする為。
辛い何かに蓋をして、自分を守っている。
身体は不思議だ・・・・・。