ただ連絡を待つだけの、不安な長い時間が流れる。ひたすら、ゆっくり、ゆっくりと。


 病院まで一時間、そこから手術で3時間、少なくとも母と姉夫婦がこちらに戻るまでは5時間以上はかかるはずだ。3時間ほど家で待機していたが、ただ連絡を待つというのが耐え難く姉の携帯電話を鳴らしてみる。

 「この電話は現在・・・・・」

留守番電話のアナウンスが流れる。病院だから電源を切っているようだ。


 きっと向こうもバタバタしていて、こちらにこまめに連絡を取る余裕などないのだろう。病院へ駆けつけたとしても手術室の前で待つのは同じだ。


「ちょっと・・・・、買い物に出ようか・・・・」


 こんな時だけど、こんな時だから、不安や悪い想像に押しつぶされない様、気を紛らわせたかった。私達は4人で車で15分程の大きなスーパーに出掛けた。買い物をしつつも、携帯電話が気になって仕方がない。小一時間程で買い物を済ませると、車に乗り込んだ。


「・・・・・ねぇ、実家で帰りを待たない?」


うちから実家までは自転車で10分程度の距離。


「別にいいよ、そうしようか」


 私達は実家に向かい、そこで皆の帰りを待つことにした。と、丁度その時、姉からメールが入った。


「手術終わりました。これから帰ります」


メールを見て少しホッした。文面からして、無事に済んだのだろう。



 実家に到着すると、家の中は当然ながら真っ暗だった。

 私は暗い家に慣れていない。実家はいつも専業主婦の母が居たし、祖母も居た。仕事がない時は父も居たので、灯りの付いて居ない部屋に少しドキリとする。

 実家は祖父母に加えて、一時は住み込みの職人さんもいたので賑やかだった。人気がないという事が殆どない。だから帰宅して家の中が真っ暗だとひどく不安になったものだ。


 電気を付ける。

いつもと変わらない、綺麗好きの母のよく片付いた家の中。だけど、誰も居ない。

この時、90歳を過ぎた祖母は別の病院に圧迫骨折で入院中だった。高齢になると、転んだりしなくても骨が潰れて骨折したりしてしまうらしい。



「ババ達、いないねぇ」

6歳と4歳の娘たちが不満そうに声をもらす。


「もうすぐ帰ってくるけど、はしゃいじゃダメだよ。今日はジジが大変だったんだから」


「ジジ、どうしたの?」

「お仕事中に怪我しちゃったんだよ。暫く入院するから帰ってこないよ」

「ええっ?やだ!ジジに合いたいよう!」

 そうだよね、ジジに合いたいよね。私だって合いたいよ・・・・・。

主人が子供をさとしているが、私は怒る気にも慰める気にもなれず、ただ黙っていた。


家の前に車を停めっぱなしにしておけないので、近くの大きなスーパーの無料駐車場へ車を停めに行く事にした。主人は、


「俺が行って来るから、待ってていいよ」

と、言ってくれたけれど、ここで待つのも嫌なので一緒に行くことにした。


 車を停めて、歩いて実家へ戻ると、家の灯りが見えた。


帰って来てる!!


 私はこれからどんな事を聞くのか怖かった。

だけど、しっかりしなくては。

私は、私に出来る事をして、姉と一緒に両親を支えなくてはいけないんだ。

自分に言い聞かせて、扉を開けた。




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