ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り、友人夫妻が笑顔で現れた。
手にはお土産のケーキを持って、現在妊娠中の奥さんはもうすぐ出産予定日。出産したら暫く合えなくなってしまうので、その前に一度合っておきたかったのだ。
「いらっしゃい」
平静を装いながら、リビングへと通す。
まだ主人にも事故の詳細は伝えていない。買ってきたランチをお皿に盛りつける手が震える。とりあえず、事故があって連絡待ちだということを伝えなくては。もしかしたらこれから病院へ行く事になるかもしれない。
「あのね、今朝うちの父が仕事中に事故にあって、今連絡待ちなんだ」
なるべく大した事がない様に明るく伝える。
「えっ?!大丈夫?!」
「・・・・わからない、今、救急車で運ばれて・・・・・」
プルルルル・・・・・・・・。
丁度電話が鳴り、会話を遮る。
来た!!
慌てて受話器を持ちあげる。
「もしもし?!どうした?どうなった?!」
電話の向こうで姉が重い口調で話し始める。
「どうも、思っていたよりも状況は悪いみたいで、今1件目の病院で消毒だけしてもらったけど、ここじゃ手に負えないからって別の病院へ搬送されたみたい・・・・」
「どこの病院・・・・?」
「わからない・・・・・・。また、連絡する」
「お母さんは・・・・どう?大丈夫?」
母は繊細な人なので、きっと私達以上にショックを受けているのはわかっていた。母も心配だ・・・・・。
「大丈夫じゃないよ・・・・・。私達が行った時はショックで立つ事も出来なくて・・・・・」
「そっか・・・・・」
とりあえず一旦受話器を置き、友人に今の状況を説明する。
「お父さん、大丈夫・・・・?」
友人が心配そうに尋ねる。重苦しい気まずい空気が流れる。
「・・・・・・大丈夫、かわからないけど、生きてる・・・・・。ごめんね、折角来てもらったのにこんな・・・・・」
「私達はいいけど、お父さんが心配だね・・・。大した事ないといいね」
友人の優しい励ましに、大した事ないことはないと言う事だけはわかっている・・・、と心の中で呟いた。
頭の中は混乱していて、何をどう食べたのかわからない。
ただ、食べないと皆に心配をかけるからと思い、食事をした気がする。
子供もいる、友人もいる。だから、あまり不安な顔は出来ない。しっかりしなくちゃ・・・・・。
再び鳴り響く電話のベルに、全員が息をのむ。
「もしもし?」
「お父さん、S病院へ運ばれて、これから手術だって!!手術には家族の同意書が必要だから、これから皆で言ってくる!また連絡する!!」
「わかった・・・・・・。連絡、待ってるね」
S病院はここから車で1時間くらいの大きな病院だ。そこには整形外科の専門があって、かなり優秀な技術を持った医師がいて設備も整っているそうだ。
私達も今すぐに駆けつけたいけれど、小さい子供が二人も居たらきっと迷惑になるだろう。姉夫婦にも2人子供がいるので、4人揃えばお祭り騒ぎになるのは目に見えている。手術が終わるのを待つしかない。
「私達、そろそろ帰るよ。大変な時にごめんね」
家に来て2時間ほどで、友人が席を立った。
「こっちこそ、折角来てもらったのに、ごめんね」
主人が友人を駅まで見送り、先ほどまでの緊張感が緩み、一気に脱力した。
友人が居ることで平静を装い、気を紛らわしていたが、これからどうしたらいい?姉の話しだと手術は3時間くらいだと言っていたが、病院へ行って姉の子供を預かった方がいいのだろうか?それともここで大人しく待っているのが良いのだろうか?わからない。頭が上手く回らない。
ぼんやりとしたまま、ひどくゆっくりと時だけが流れる。