2025年ーーーーーーーーーーーーーーーー

イタリア共和国 カラブリア州

 

ロザルノ近郊の山道

ーーーーーーーーーーーーーーーーー0:19

 

 

ジュゼッペ・アザロが赤いフィアットを道路脇に停め、渓谷を見下ろしながらスマホを握りしめていた。

 

【 (………カリーナが!?どうしてカリーナが?………………。………そうか。多分それだ。今から引きかえして海岸へゆく。お前は家で待っていなさい) 】

 

電話を切ったジュゼッペに、一歩下がった暗がりにいた由加が話しかけた。

 

 

【 ジュゼッペさん。どうしたの? 】

 

【 うちのカリーナが………。孫で12歳のカリーナ・モデナがこんな夜中に家を出たらしい】

 

 

【 なぜ!?】

 

【 家を出る前、自宅で誰かからの電話を受けていたのだと。タクシーを呼んだ形跡もある。だから多分………】

 

 

【 ………? 】

 

【 電話の相手はカリーナ・アザロだろう。彼女たちは見た目には同じ年頃だ。何かしら感化されたんだ。リカーディまで引き返すぞ】

 

 

 

2025年ーーーーーーーーーーーーーーーー

レッジョ・カラブリア県

バニャーラ・カーラブラ

 

駅ホーム

ーーーーーーーーーーーーーーーー22:08

 

 

オフシーズンの小さな海水浴場の駅。

 

その寂れたホームの一角で二人の幼い少女が向き合っていた。

 

フリルのついた赤いワンピースの少女と、白いワンピースの少女。

 

ワンピの色以外は髪の色も目の色も、顔立ちさえもコピーの様にそっくりだった。

 

 

【 ………貴方がカリーナ・アザロ? 】

 

【 ……… 】

 

 

【 その手??どうしたの?血が出てる! 】

 

【 追いかけられているから、機械を取った。これでもう大丈夫だと思うんだけど】

 

 

【 ………そう。電車が来た。乗ろう】 

 

 

 

彼女たちは最後尾の車両に並んで座った。

 

オフシーズンのローカル沿線は物悲しく薄暗い車内光を発していた。

 

窓に映る海岸線の空は多くの星が隠され、ほんの一縷の月を灯しているだけ。

 

車両が冷えた鉄を踏む音が響き、緩やかで規則的な揺れを彼女たちに伝えていた。

 

 

 

【 驚いた。私と顔が同じ】

 

【 ………血がつながっているから】

 

 

【 血?】

 

【 あたしは貴方の先祖だから】

 

 

【 リカーディの海岸へは何をしに? 】

 

【 ママに会うの。あたしの孫のジュゼッペが海岸まで連れてきてくれる】

 

 

【 ママ? 】

 

【 ………お願い。今はもうそれ以上聞かないで。あたしは今、全力で心構えをしてるの】

 

 

【 そっか………。じゃあ私のお話をしようか。私は今日さ、学校を早退したの】

 

【 ………どうして?】

 

 

【 いじめられてる。ママには熱が出たからと言ったけど】

 

【 ………そっか】

 

 

【 叩かれたり、カバンを隠されたりはしてない。だけど私は幽霊だ。誰も私を見ていない。

 

私が廊下でつまづいて転んでも、誰も見向きもしない。誰も笑わない。

 

みんなで口裏を合わせて、私を無視しているの】

 

【あたしと一緒だね。あたしも小さな箱の中でずっと一人。幽霊みたいな存在】

 

 

【私たち、似てるね】

 

 

 

………その時突然、二人の目の前に透明なクラゲが一匹、ふわふわと漂い舞い降りてきた。

 

 

 

 

 

(つづく)