「カンパーイ!」
開栄学園の近くにファミリーレストランがある
ここに、高校受験を終えた私と私の小学校からの友人坂本美鳥、
それから陸くんの親友の
高木将太郎くんが打ち上げをしにやってきた


私達はドリンクバーで持ってきた、それぞれの好きな飲み物で乾杯した



「えーっ紹介遅れました。高木将太郎です。陸と同じ開栄学園の中3。あと2ヶ月くらいで開栄学園高等部に入学予定です。女の子とはあまり話したことないんですけど……よろしくです」




将太郎は若干緊張しているのか話している途中で語尾が小さくなる
彼はさっぱりとした、短髪で笑うと白い歯が印象的だった
爽やかな容姿の一方、制服のシャツは第2ボタンまであけられていた


すかさず、陸はフォローした
「何かこいつ今日テンションおかしいな。いつもなら第2ボタンなんか開けないのに」
そういわれた将太郎は恥ずかしそうに第2ボタンをしめた
「俺らみたいな学校だと、みんなにただのガリ勉だと思われがちだから、ちょっと、チャラい一面を見せようと思ったんだよ」
顔を真っ赤にして、尖らせた口で言った


そんな将太郎を美鳥は笑顔で見つめていた
どうやら美鳥は将太郎を気に入ったようだ


「何か頼む?」
陸がメニューを差し出す
私は少し困った
今月は新しい高校のための入学金など出費が多すぎて、生活費がいっぱいいっぱいだ




「俺のおごりだから。合格祝い」
陸は小声で私に耳打ちしたそういう陸の優しさが大好きだ




「じゃあ、イチゴパフェ」


「お、いいね。半分頂戴」
君はまたにっこり笑うから時折無性に愛おしくなる
陸は見かけによらず、甘いものが大好きだ
そこがまた可愛い
「いいよ」










打ち上げはかなり盛り上がり、帰りは
陸と将太郎くんは予備校があるので二手にに別れて帰った



「美鳥、将太郎くん、どうなの?」


「……素敵な人だと思うよ」

美鳥は思った以上に真剣に言った


「アド聞けたんでしょ?」


「うん。向こうから聞いてくれた。芹、紹介してくれて、ありがとう」


「それは良かった」


私はうらやましくなった
美鳥は将太郎くんと
何も後ろめたいこともなく付き合える


「芹も田宮くんと上手くやってるみたいじゃん」



確かに上手くやってる
月日を重ねるごとに
どんどん彼に引かれていく離れられなくなっていく



でも
だからこそ怖いんだ
失う瞬間が



私は、それを考えると、
言葉に詰まる


「……芹、また暗い顔してるよ。ほら自信もって!」


美鳥は私の背中を強めに叩いた
美鳥の明るさと、力強さにつられて笑った



美鳥はいつもそう
とにかく自信に満ち溢れ、いつも明るさで私を励ましてくれた



小学校の時、私の上履きが隠されたとき
「上履きなんて、なくても大丈夫。証明してあげる」といって
裸足になって歩いてくれたことがあった
ある日教室に落ちてた画鋲が刺さって、美鳥は裸足でいるのをやめたが、
私は嬉しかった



「一人じゃない」
といつも支えてくれる美鳥は心強く
憧れさえ持っていた





強く清く正しい
大切な大切な親友だ






















陸と将太郎は電車に揺られていた。
これから予備校に行くのだ

「陸、お前最近よく笑うようになったよな」
将太郎はぼぅっと前を見ながら言った
陸たちの座席の前は誰も座っていなかった
帰宅ラッシュの時間とズレているからだろうか
全体的にがらんとした雰囲気の車内だ
「そうか?」


「前は、どっか冷めてるっていうか、冷静過ぎるところがあったけど、なんか、こう…人間らしくなった」


「…そうかな」


「人を好きになるってすごいなっ」
将太郎は親指をたてて、
満面の笑みでいった
昔から、将太郎は嬉しかったり楽しかったり、感動したり、面白い、と伝えるときにこうやって親指を立てる癖がある


「ははっ、お前だって、美鳥ちゃんだっけ?気に入ってたみたいじゃん」


「まぁな。」
美鳥の名前を出すと途端に将太郎は静かになって、鼻をこする
男子校なので女の子との交流がなくこういう話は慣れていなくて照れくさい



「上手くやれるといいな」



「そういえば、お前こそ、親に言ったのかよ。芹ちゃんのこと」



「まだ言えない」



「芹ちゃんの育ちの事知ったら確実にお前の親父、ブチ切れだろうしな」



将太郎と陸は家族ぐるみの付き合いだ



陸の親と将太郎の親は仕事上での取引があり、
幼少の頃から
「お前らは将来、一緒に仕事する事になる。今のうちに、仲良くしとけ」
と言われ、半ば強引に2人は遊ばされていた



結局親の企み通り、親友の仲を築いた



もちろん、
人見知りで、人と関わることが苦手な陸は将太郎とは遊ぼうとしなかった


でも、社交的で明るく、人と話すのが得意な将太郎は会う度に陸に話しかけてきたので


最初はあしらっていた陸だったが、
将太郎は諦めず絵本をたくさんもってきて、それぞれの良さを語り出し
一緒に読もう、と誘ってきた
仕方なく一緒に本を読み出すと、彼のペースに陸は引き込まれ、
それからは逆に、将太郎と遊べる日が楽しみになっていた



幼少の頃から
将太郎のそういった性格はまったく変わらない


昔から、積極的で、太陽のように明るく、川のように人を引き込んでいく。
育ちの良さも鼻にかけず、素直で実直な青年だ





「俺は親父に散々言われるのに慣れてるから…いいんだ。でも、芹は、弱くて繊細な所があってさ。親父に何かされたら凄く傷つくと思うんだ。それが怖くて」


「お前の親父の名言、俺の言うことは絶対だ!…あれをマジで言っちゃうのがすげぇよな」
将太郎は陸の父の口まねをした


「すっげぇ似てる」
陸は少し驚きながら笑った


将太郎は芸達者なので
こうして暗い話も面白おかしく飾ってくれる



「あとさ、中学受験の時とか、怖いどころの騒ぎじゃなかったよな」


「ああ、あれは思い出したくもないよ」


小学校六年のとき
全国一の進学校開栄学園に合格できるように
毎日毎日勉強机に座らされた
将太郎の家も同じように厳格な家庭だが、陸ほどではなかった


よく、一緒に将太郎は陸と受験勉強をしていたからわかるが
あの頃の彼は本当に不憫だった
それは昔に限ったことではない
もちろん今もだ。
彼はいつもテストは学年トップを保たなければならない
そして、今まで彼は一度もトップではなかった時はない
考えられないくらいの努力をしている



でも、陸はどんなに追いつめられても、将太郎や周りの人にあたる事はなかった

将太郎は親の無理な言いつけや、辛い出来事を
冷静に自分を殺してまでただ受け入れるだけの陸が時々怖くなることがあった



自分の気持ちを押し殺し、ストレスを溜め込んで、
いつか爆発してしまうんではないか、と不安になった



でも最近の陸は、
自分の気持ちを大切に出来るようになった
自分が何がしたいのか、
何に怒って、何に喜んでいるのか
人間らしい感情を素直に面に出すようになった


将太郎はとてもそれが嬉しかった



「陸、頑張れよ」
また将太郎は親指を立てた

陸は何も答えず微笑んだ
その笑顔に将太郎はまた
ホッとした。
陸に人間らしさを教えたのは相良芹だと実感した





















陸は夜道を歩いた
予備校の帰り、バス停から自宅まで五分ほど歩くのだ

携帯電話を何気なく開けてメールが来ていないかチェックした
同級生からレポート提出日について聞かれるメールが届いていた
少しかじかむ指先で「明後日だよ」と打って送った
送るとすぐに「ありがとう」と返ってきた


その時、陸は芹が携帯電話をもってたら良かった…と残念に思った




陸は芹を日に日に本当に大切な存在に感じてくる
好きが愛しさに変わり、
一緒にいたいという感情が守りたいという思いに変わった


ずっとそばにいてあげたい

ずっとそばにいたい


それが陸が毎日のように、感じることだった


君の事を考えながら歩く道は何故、明るいんだろう