警視庁物語(1) | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

“警視庁物語”は、1955年の『終電車の死美人』に始まる東映の警察ものシリーズで、64年の最終作『行方不明』まで24本作られています。二本立て映画の添え物作品として製作されましたが、出来のよいドキュメンタリータッチのB級サスペンスとして好評でした。

第1作目の『終電車の死美人』(1955年・/監督:小林恒夫)は、朝日新聞警視庁担当記者団が、担当した事件記録として出版した『警視庁』を元朝日新聞記者・白石五郎と新人の森田新が共同脚色。三鷹駅止まりの終電車から、有楽町発売の切符を持った女性の死体が発見されます。警視庁捜査一課の阿川課長(宇佐美淳也)は捜査本部を開設し、三井主任(山形勲)のもと長谷川刑事(堀雄二)たちが聞き込み捜査を開始。不動産売買の代金横領に端を発した殺人事件で、実行犯の南原宏治と黒幕の東野英治郎を刑事たちが足を使ってコツコツ追いつめていきます。見事なカッティングで最後までスリリングな展開。

刑事たちが聞き込みする人物が多数出てきますが、土地売却金の授受を目撃した喫茶店のウエイトレス役でデビュー間もない頃の中原ひとみが出演。その他大勢の中でも光っていましたな。

第2作目の『警視庁物語・逃亡5分前』(1956年/監督:小沢茂弘)は、現職だった警視庁鑑識課員の長谷川公之が脚本を書き、以降最終作まで脚本を担当。この作品から“警視庁物語”の冠がつき、厳密にはこの作品がシリーズ1作目といっても過言ではありません。

深夜の深川でタクシー強盗殺人事件が発生。刑事たちは、巧妙な手口から常習犯とにらみます。犯人の情婦(星美智子)に拳銃取引を持ちかけて逃亡寸前の犯人(富田仲次郎と伊藤久哉)を誘き出して逮捕。捜査1課長の松本克平、捜査主任の神田隆、長田部長刑事の堀雄二、金子刑事の山本麟一がレギュラーとして定着。捜査活動の中心となって動く堀雄二と行動を共にする若手刑事役で南原宏治(当時は南原伸次)が出演。東映娯楽版が若手時代劇スターの登竜門になっていたのと同様に、警視庁物語は若手現代劇スターの登竜門になっていたようです。2作~5作が南原宏治、6作~7作が波島進、8作~9作が大村文武、10作~12作が南廣、13作~15作が中山昭二、16作~18作が千葉真一、19作~24作が再び南廣といった具合。他の刑事は、林刑事役の花沢徳衛、渡辺刑事役の須藤健、高津刑事役の佐原広二が登場回数からみてレギュラーといえます。以下、順を追ってエピソードを紹介すると……

『魔の最終列車』(1956年/監督:小沢茂弘)

東海道線の最終列車の郵便車両が襲われ、拳銃で二人が殺害され、一人が重傷を負って現金袋が奪われます。山形勲と浦里はるみという名の知れていた役者が犯人一味のボスと情婦で出演。ラストは警官隊との銃撃戦というのは、娯楽作品にはアクションが必要と当時は考えていたんでしょうねェ。

 

『追跡七十三時間』(1956年/監督:関川秀雄)

タクシーとガソリンスタンドが襲われ、使われた拳銃を手掛かりに犯人を追う刑事たち。密売人から拳銃を買ったチンピラが倉庫破りで負傷し、もぐりの医者に診てもらう治療費稼ぎに兄貴分が拳銃でタクシーとスタンドを襲撃したんですな。チンピラが今井健二で、兄貴分が加藤嘉。前作では刑事役だった花沢徳衛がこの作品ではもぐりの医者。

 

『白昼魔』(1957年・東映/監督:関川秀雄)

赤坂のナイトクラブの前で高級車が盗まれ、持ち主の外国人が射殺されます。殺人犯である自動車窃盗団のボスが木村功なので、最初から顔を見せ、余命いくばくもない労咳持ちというキャラ設定で、捜査本部の活動だけでなく、犯人の行動も並行して描いています。月丘千秋が木村功の愛人役で出演。セリフなしの役でデビューしたばかりの大川恵子も出ています。

 

『上野発五時三十五分』(1957年・東映/監督:村山新治)

オートレース場で殺人事件が発生。被害者は大穴をあてた男。“上野発五時三十五分”は、犯人(多々羅純)と愛人(浦里はるみ)が逃走に使う予定だった列車。それに乗ることが出来ず、御用になるんですけどね。花沢徳衛が刑事に復活。前作では刑事だった須藤健は、ヒロポン密売場所で商売する屋台のおでん屋のオヤジです。

 

『夜の野獣』(1957年/監督:小沢茂弘)

地下鉄の駅に近い原っぱで強盗にあったと思われるサラリーマンの刺殺死体が発見されます。現場近くで逢引きしていたアベックが目撃しており、犯人は集団スリの一味で、被害者は掏られた財布を取り戻すために追いかけていって殺されたものと判明。この作品よりシネスコサイズ(東映スコープ)になります。スリ担当刑事の加藤嘉がスリの色々な手口を説明してくれます。他にも、稲葉義男・潮健児・大村文武・穂高稔・織本順吉・千石規子など知っている顔がいっぱい。

 

『七人の追跡者』(1958年/監督:村山新治)

マンホールから女性の扼殺死体が発見されます。被害者は社員の給料を銀行に受け取りに行ったまま行方不明になっていたマネキン製造会社の事務員と判明。刑事たちは、被害者の男関係を地道にあらっていきます。“七人の追跡者”とは、捜査主任(神田隆)、長田部長刑事(堀雄二)、金子刑事(山本麟一)、林刑事(花沢徳衛)、渡辺刑事(石島房太郎)、高津刑事(佐原広二)、それに太田刑事(大村文武)です。

『魔の伝言板』(1958年/監督:村山新治)

タクシーのトランクから運転手の死体が発見されるという連続タクシー強盗事件が発生。犯人一味は、仲間が捕まった時に居場所がわからないように、上野駅の伝言板を使って連絡をとりあっています。犯人役として、三井弘次・織本順吉・田中春男が出演。

 

『顔のない女』(1958年/監督:村山新治)

荒川の河川敷にバラバラ死体が流れ着きます。被害者はキャバレーの女給で、刑事たちは橋の上から死体を落とした車を追跡。毎回チョイ役で顔を見せていた潮健児が、今回は性格異常の犯人役。デビュー間もない佐久間良子がホステス役で出演しています。

 

『一〇八号車』(1959年/監督:村山新治)

パトカー警視108号が巡回中に不審な小型トラックを見つけ、職務尋問しようとした警官が拳銃で撃たれて死亡します。犯人は窃盗グループで、一味のチンピラ役で曽根晴美が出演。

この作品で警視庁の殉職者を祀る弥生廟(現:弥生慰霊堂)の存在を初めて知りました。これまで、映画やテレビで数多くの刑事ドラマを観ていますが、ロケに使われたのはこの作品だけじゃないですかね。

 

『遺留品なし』(1959年/監督:村山新治)

アパートの自室で電話交換手の坂井久子が殺害され、遺留品は残されていないものの、現場の状況から顔見知りの犯行と考えられ、刑事たちはアパートの住人や久子の同僚たちに聞き込みを開始。

刑事たちが聞き込みを行う普通なら大部屋役者がやるような役に、木村功や星美智子、殿山泰司などが出演しています。棒読みセリフの大部屋役者と違って、犯人じゃないかと思わせたりしてね。捜査対象や聞き込みの対象となる人物を表情豊かに描くのが定番になってきました。

長くなったので、シリーズ13作目以降は次回で……