市川雷蔵が主演した任侠映画“若親分”シリーズ(全8作)は、4作目までは連続性があったのですが、5作目以降は独立した作品。悪徳ヤクザや彼らを利用する権力者に対して、任侠の世界に入った青年将校が、正義の情熱でドスをふるう設定は同じ。
『若親分あばれ飛車』(1966年/監督:田中重雄)
軍港拡張工事の起工式で賑わう大浜市に南条組二代目・南条武(市川雷蔵)が墓参のために帰ってきます。代貸だった猪之助(見明凡太郎)は、武に解散した南条組の再興を懇願。そんな気はなかった武に、軍の不正を調査している海軍時代の親友・竹村(戸田皓久)や井川(藤巻潤)が軍への納入を一手に請け負っている北門組の調査を依頼。市の土木課で働いている猪之助の息子・五郎(青山良彦)が北門組の工事入札の不正を見つけます。北門組に襲われた五郎を助けた武は、任侠道の道を守るために南条組再興を決意。そのことを、料亭にいる北門(二本柳寛)に告げた武は、北門組にその場で襲われますが、料亭の養女・千鶴(嵯峨三智子)が、かつて自分の父を斬った男と知らずに武を助けます。因縁のある二人ですが、互いに惹かれ合うんです。北門組は、竹村たちの調査を止めさせるために井川を罠にかけて捕まえ、それを知らせようとした猪之助も殺されます。武は将棋の駒がデザインされた南条組の標半纏を着て北門組に殴り込み、井川を助け、一連の不正には、大物政治家や大浜市長、海軍上層部も係わっていることがわかり……
物語の連続性は途切れて、前4作から抜粋したようなストーリーになっています。悪徳ヤクザ一家をたった一人で斬り倒し(一太刀で斬り捨てていく殺陣は時代劇そのもので、東映任侠映画とは異なる味わいがあります)、包囲する警官の前を軍服姿で通り抜けて、最後の黒幕退治。嵯峨三智子は闇討ちされそうになった雷蔵をかばって死に、雷蔵よ何処へ行くでエンド。
『若親分を消せ』(1967年/監督:中西忠三)
亡き父の旧友である三野親分が汽車の中で刺され、同乗していた南条武(市川雷蔵)に「水上のよろい」と言い遺して死にます。水上の町に来た武は、神部さだ(木暮実千代)の料亭・観月楼の板前として働きながら、町のヤクザ・鎧組を調査。さだと懇意の任侠道にいきる小日向親分(佐々木孝丸)から、三野親分が親分衆の寄り合いで鎧組の悪どさを追究したことから組長の大吉(安部徹)が三野親分を憎んでいたことを知らされます。三野親分殺しは、鎧組三羽烏の仕業と考えられ……
ミステリータッチの味付けで、シリーズの中でも異色な作品。悪徳ヤクザと結託している高利貸しに横恋慕されている芸者(藤村志保)が、海軍時代の恩ある上官の娘とわかり、武は偶然出会った親友の竹村少佐(戸田皓久)と相談して身請けの金を作ります。それを恨んだ高利貸しが鎧組を通じて観月楼に圧力をかけ、交渉にきた小日向親分を旅から帰って来た鎧組三羽烏のひとり(五味龍太郎)が殺害。使われた短刀が三野親分殺しと同じものだったことから、武は高利貸しを成敗し、鎧組を潰して町から去っていくのです。この作品では、橋幸夫が歌う主題歌が流れますが、シックリきません。
『若親分兇状旅』(1967年/監督:森一生)
海軍時代の親友・高木少佐が自殺し、南条武(市川雷蔵)は死の原因を探り始めます。高木の下宿先の娘・早苗(葉山葉子)や高木の行きつけの飲み屋の娘(都はるみ)から自殺前後の言動を聴取。そして、土建屋小山組の女親分・千代子(江波杏子)や運送業者で武の海軍時代の部下だった金杉(垂水悟郎)が事件に関係していると睨みます。彼らの背後に町のボスである土屋子爵(渡辺文雄)と政界の黒幕・俵藤(永田靖)いることが判明。金杉と対決した武は、金杉から高木が御国のためという俵藤に騙されて斡旋した汽船が、満蒙の軍閥を戦わせて両方に武器を売りつける密輸に使われていると知って自決したことを知らされます。武に惹かれるようになった千代子から、武は武器・弾薬を積んだ船が出航することを知らされ、海軍の友人・井川少佐(藤巻潤)に連絡。海軍の巡視船が、武器輸送船の出港を阻止。武は死の商人の土屋と俵藤を成敗。
ミステリー仕立てにしていますが、基本構造は同じ。土建現場で子分たちを威勢よく怒鳴りつけている江波杏子が、夜は芸者姿で色っぽいところを見せています。この作品から藤巻潤が歌う「若親分」が主題歌となり、ストーリーとは関係なく、都はるみが劇中で持ち歌を歌っていま~す。
『若親分千両肌』(1967年・大映/監督:池広一夫)
旅の途中で南条武(市川雷蔵)は栄吉という男と間違われて闇討ちされ負傷します。奇術一座の弁天斎辰丸(長門勇)に助けられ、宇島の町へ。興行手数料の件で辰丸と青柳組が揉め、武が青柳組を訪ねます。親分の竜作(東野英治郎)は武を客人として迎え、代貸の黒崎(北城寿太郎)を叱責。青柳組の跡取りの栄吉(山口崇)はヤクザを嫌って家出しており、武を狙った刺客の本来の襲撃目標と判明。黒崎は青柳組の敵対組織・赤松(織本順吉)組と結託して、青柳組を乗っ取ろうと計画しています。宇島には海軍の研究所があり、友人の水上少尉と偶然再会。水上少尉の案内で青柳組が建造に関わっている秘密兵器工場を見学。次の日、工場が何者かに爆破され、秘密兵器の設計図も盗まれます。竜作はスパイ容疑で憲兵隊に捕まり、武は海軍仲間に1週間以内に真犯人を捕まえると確約して捜査を開始。特務機関上がりの大杉(三島雅夫)が江藤技術将校(木村玄)と関係あることをつきとめ、赤松の背後で暗躍していることがわかります。栄吉は黒崎と赤松が工場爆破現場にいたことを目撃。栄吉から連絡のあったことを竜作の養女・君江(藤村志保)から聞いた武は、栄吉に会いにいきますが、栄吉は黒崎の女とも知らずに愛した女給の葉子(久保菜穂子)に騙され、赤松組が作業する海軍倉庫に監禁されます。武は海軍士官に変装し、辰丸と警戒線を巧みにくぐりぬけて栄吉を救出。大杉は邪魔な赤松と黒崎を殺し、江藤と海外逃亡しようとしますが、武が立ちはだかります。
シリーズ最後となった作品。長門勇が双手棍を使ったアクションや三枚目ぶりを見せて存在感を出しています。「主人公に“人間”を感じさせるものがなくなり、いつも海軍の制服を着て出てくるということで、ストーリー設定もマンネリ化してきた」と雷蔵自身が語っているように、自分の意志でシリーズに幕を下ろした感じ。この後、『博徒一代 血祭り不動』という任侠映画に出演した後、雷蔵は亡くなっています。
前作に続き、藤巻潤が歌う「若親分」が主題歌。♪~残侠一匹流れ旅、南条武よどこへ行く~





