昔、私が、とある私立高校に嘱託のスクールカウンセラーとして勤めていた時の事。
担任教師に連れられて、当時1年生のR子ちゃんがカウンセラー室へやって来ました。
少し前に、転入をしてきたばかりの、転校生です。
R子ちゃん、転校後ほどなくして、まだ馴れない学校での対人関係や進学の問題などでいろいろな悩みを抱えてしまい、なかなかコンスタントに登校できずにいたのです。
そんな中、食事を摂ることができない「摂食障害」(拒食症)が顕著になってしまい、担任と共にカウンセリングルームへ来室したというわけです(勿論、かかりつけの病院へも通っていました)。
体重も、日に日に減ってゆき、このまま放っておいていいワケがありません。
本人曰く、学校へ登校することができたり、勉強が思うように捗ったりした時などは、「自分へのご褒美」として、食事を多少口にすることが出来たようです。
「思った通りの結果も出せていないのに、何かを口にするなんてことは、あってはならないことなんです。決して許されません」←(誰に?)
さて、このR子ちゃんには、別の高校へ通う、双子のお姉ちゃんがいて、二人は自他ともに認める、大の「仲良し姉妹」との事でした。
「ええ、姉のこと、私、大好きなんです。嫌いだなんて思ったこともありません! まして憎んでいるなんて、そんな事、絶対にある筈ありません!」
私からの問いかけに、当初、キッパリそう断言したR子ちゃんでしたが……。
「先生、私、やっぱり姉の事、好きじゃない……」
「姉は、何をやらせても、私よりずっと上手にこなしてしまうし……なによりも、学校へきちんと通ってるんです」←❢
「両親もきっと、そんな姉を自慢にして、私の事は『我が家の恥』『厄介者』だと思っているに違いないんです!」
そんな風に話すR子ちゃん、
「でもね、先生、そんな私でも、姉に敗けなかった事が、一つだけあるんです」
それが「ダイエット」でした。
ある日、姉妹で見ていたとある雑誌の『〇〇ダイエット特集』。
どちらからともなく、
「いいねえ、コレ。ねえ、やってみない?」
「やろうやろう!」
早速始めた二人でしたが、数日後、お姉ちゃん、
「私、やーめた!食事制限なんてバカバカしい!私は、美味しいものたらふく食べるんだあ!」……リタイアです。
R子ちゃん、内心、
「勝った! 私『ダイエット』では、お姉ちゃんに敗けなかった! 私、これからも『ダイエット』は続けるもん!」
R子ちゃんの心の中の叫び;「ねえねえ、パパ、ママ、聞いて聞いて! 私、勝ったよ! お姉ちゃんに勝ったんだよ! 私、これから、もっともっとダイエット頑張るね……だから、パパ・ママ、お姉ちゃんじゃなくて、私の事を見て……」
子どもは誰もがこのように、両親からの「賞賛」が欲しくて欲しくて、承認されることに必死なのですね。
真の「愛」・・・それは、「そのままの君でいいんだよ」と「無条件で受容する」こと。
現代、巷に多く見受けられる「条件付きの愛」…「親の思いどおりのあなたでいる限りは、ちゃんと愛してあげますからね」…これは、ネグレクト以上に子どもの心を深く傷つける、と言われます。
「私は、~が出来た暁に、初めて愛される資格を持てる子」…。
R子ちゃんのご両親の名誉のために申し添えますが、ご両親は姉妹差別をするような方たちでは、決してありませんでした。
それどころか、むしろ、折ある毎にR子ちゃんを励ましておられたのです。
「R子だって、お姉ちゃんと同じ血を分けた子なんだよ。きっと、お姉ちゃんと同じように、なんでもできる子になれるからね。すごい可能性を持った子なんだよ。頑張ってね!」
R子ちゃんの無意識;「そうか。お姉ちゃんは、今のままで、パパとママに愛されてるんだ。でも、私は、もっともっと頑張って、お姉ちゃんのように、なんでもできる子にならなくちゃ、愛されないんだね」
兄弟間では、たとえ一方を貶めなくとも、他方が賞賛されることで、一方は「自分が否定された」ような寂しさを感じると、よく言われます……。
子育てって、難しいですね!
これでR子ちゃんのカウンセリングの方向性が決まりました。
えっ、その後の顛末ですか?
「へえ~、R子ちゃんて、こんなチャーミングな笑顔を見せる子だったんだあ!」という私の感想をご紹介させていただくことで、この事例の結びとさせていていただきたいと思います。