タマネギを剥き続けたら何が残る?
・・・なぁんてことを真剣に考えたことなんてないけど。
残んないし!目が痛いだけだし!w
人間は、被ってる殻を剥き続けたら何が残る?
体裁とか建前とか
常識とかマナーとかモラルとか
社交性とか協調性とか
欲とか
全部の仮面や本能を脱ぎ捨てたら
何が残る?
千代江さんは認知症だった。
徘徊して歌を歌って
陽気な千代江さんは
時には暴力的になって暴言を吐いた。
腰に両手をまわして
ゆったりと歩きながら
何かの民謡か、軍歌を歌うのが好きだった。
食べ物には執着してたけど
お風呂は激しく拒否したりしたけど
普段は優しく穏やかに笑ってたな。
何でも口に入れるから注意しなきゃいけないし
排泄物も弄るので大変だったのは確か。
でもボクはそんな千代江さんがとても好きで
よく一緒に歌を歌った。
膝が曲がって歩きにくくなった千代江さんの
曲がった膝を伸ばしながら
ボクは「戦友」を歌った。
途中で歌詞を忘れたボクを置いて
千代江さんはどんどん先を歌い
歌い終わる頃には膝を伸ばすのも終わってた。
食事のとき千代江さんは
自分の分はさっさと食べ終わって
他の人の食事を盗って回ることがあるので
少し離れた場所で食べてたこともある。
気をつけてないといつの間にか歩いて来てて
サッ!と何かを懐に入れる。
見つけて何を入れたのか問うと
一生懸命隠そうとする。たいていは誰かの食べ物だ。
みんなは
かなり手を焼いていたなぁ・・。
ある日
廊下の向こうから千代江さんが歩いて来た。
鼻歌を歌いながら
腰で手を組んで
あっちへふらふらこっちへふらふら
まっすぐは歩いて来ないけど
ふと、ボクと目が合った。
千代江さんはまっすぐこちらへ歩いてくる。
そして言うんだ。
「あんた足が痛いんか?」
そうだなボクは
確かに足を痛めている。
でも他のみんなは気づいてない人もいるんだ。
千代江さんは、ボクの「それ」に気づいたんだな。
「これ、貼ってみな?」
千代江さんは懐に手を入れて何かゴソゴソと出してくる。
・・・手には、くしゃくしゃになったペーパータオルが1枚。
トイレに手拭きとして置いてあるやつだなこれ。
千代江さんはボクの胸にそれを押し当てて
持って行けとのジェスチャーをする。
「これ貼ったら痛いのが治るからな。貼っときや?」
湿布と思ってるのだろうね。ペーパータオルのこと。
そしてまた千代江さんは鼻歌を歌いだし
ボクの横をすり抜けて歩き出す。
曲がった膝でゆっくりと一歩ずつ。
ボクはしばらくそのくしゃくしゃのペーパータオルを
捨てることが出来なかった。
ボクを見上げるように間近で見た千代江さんの顔は
澄んだ目と優しい笑みと
いろいろなことをたくさん経験した証拠のシワと
・・・ほっぺには何だろあれ・・・ごはんつぶかな・・・ついてたけど
この人はきっと
とても優しいひとだ。
ずっと優しく、人生を歩んできたんだろうな。
そう思ってちょっとだけ目がうるんだ。
きっともうこの世にはいない。
どんな最期だったのかも知らない。
でも
何年経ってもボクは
くしゃくしゃのペーパータオルのことを覚えてるよ。
たっぷりの優しさと可愛いと言ったら失礼かもだけど可愛い顔の
認知症の千代江さんのこと。
ボクももし・・・もし
あなたのような年齢まで生きることができて
もし・・あなたと同じ病気になっても
最後に残る「ボクの核の部分」は
あなたみたいに、優しい核が
残っていればいいな。
今のボクは何を被ってるだろう。
被りすぎてほんとの姿がどうだったのか
忘れてしまったようで。
ずっと忘れられないんだ
千代江さんのこと。
もう一度会いたいな・・。
・・・なぁんてことを真剣に考えたことなんてないけど。
残んないし!目が痛いだけだし!w
人間は、被ってる殻を剥き続けたら何が残る?
体裁とか建前とか
常識とかマナーとかモラルとか
社交性とか協調性とか
欲とか
全部の仮面や本能を脱ぎ捨てたら
何が残る?
千代江さんは認知症だった。
徘徊して歌を歌って
陽気な千代江さんは
時には暴力的になって暴言を吐いた。
腰に両手をまわして
ゆったりと歩きながら
何かの民謡か、軍歌を歌うのが好きだった。
食べ物には執着してたけど
お風呂は激しく拒否したりしたけど
普段は優しく穏やかに笑ってたな。
何でも口に入れるから注意しなきゃいけないし
排泄物も弄るので大変だったのは確か。
でもボクはそんな千代江さんがとても好きで
よく一緒に歌を歌った。
膝が曲がって歩きにくくなった千代江さんの
曲がった膝を伸ばしながら
ボクは「戦友」を歌った。
途中で歌詞を忘れたボクを置いて
千代江さんはどんどん先を歌い
歌い終わる頃には膝を伸ばすのも終わってた。
食事のとき千代江さんは
自分の分はさっさと食べ終わって
他の人の食事を盗って回ることがあるので
少し離れた場所で食べてたこともある。
気をつけてないといつの間にか歩いて来てて
サッ!と何かを懐に入れる。
見つけて何を入れたのか問うと
一生懸命隠そうとする。たいていは誰かの食べ物だ。
みんなは
かなり手を焼いていたなぁ・・。
ある日
廊下の向こうから千代江さんが歩いて来た。
鼻歌を歌いながら
腰で手を組んで
あっちへふらふらこっちへふらふら
まっすぐは歩いて来ないけど
ふと、ボクと目が合った。
千代江さんはまっすぐこちらへ歩いてくる。
そして言うんだ。
「あんた足が痛いんか?」
そうだなボクは
確かに足を痛めている。
でも他のみんなは気づいてない人もいるんだ。
千代江さんは、ボクの「それ」に気づいたんだな。
「これ、貼ってみな?」
千代江さんは懐に手を入れて何かゴソゴソと出してくる。
・・・手には、くしゃくしゃになったペーパータオルが1枚。
トイレに手拭きとして置いてあるやつだなこれ。
千代江さんはボクの胸にそれを押し当てて
持って行けとのジェスチャーをする。
「これ貼ったら痛いのが治るからな。貼っときや?」
湿布と思ってるのだろうね。ペーパータオルのこと。
そしてまた千代江さんは鼻歌を歌いだし
ボクの横をすり抜けて歩き出す。
曲がった膝でゆっくりと一歩ずつ。
ボクはしばらくそのくしゃくしゃのペーパータオルを
捨てることが出来なかった。
ボクを見上げるように間近で見た千代江さんの顔は
澄んだ目と優しい笑みと
いろいろなことをたくさん経験した証拠のシワと
・・・ほっぺには何だろあれ・・・ごはんつぶかな・・・ついてたけど
この人はきっと
とても優しいひとだ。
ずっと優しく、人生を歩んできたんだろうな。
そう思ってちょっとだけ目がうるんだ。
きっともうこの世にはいない。
どんな最期だったのかも知らない。
でも
何年経ってもボクは
くしゃくしゃのペーパータオルのことを覚えてるよ。
たっぷりの優しさと可愛いと言ったら失礼かもだけど可愛い顔の
認知症の千代江さんのこと。
ボクももし・・・もし
あなたのような年齢まで生きることができて
もし・・あなたと同じ病気になっても
最後に残る「ボクの核の部分」は
あなたみたいに、優しい核が
残っていればいいな。
今のボクは何を被ってるだろう。
被りすぎてほんとの姿がどうだったのか
忘れてしまったようで。
ずっと忘れられないんだ
千代江さんのこと。
もう一度会いたいな・・。