キム・スンヨン監督のドキュメンタリー映画『Tibet Tibet』はチベットの現状を伝え、文句なく佳作だと思うが、映画をご覧になった方は必ず同題名の著作も読んで欲しいと切に願う。
同作はチベット問題と同時に監督自身の出生に関わる在日韓国人問題にも言及されている。

映画だと時間の関係か、在日の問題がちょっとだけ触れてあり、
「亡命チベット人と触れ合って、僕も自分の民族の誇りを大事にしようと思いました」
みたいな単純な話になっていた。
亡命チベット人と在日韓国人は違うんだけどなぁ。
今のチベットが中国に、戦前の挑戦半島が日本に併合されたのは事実だ。
チベット人がインドやアメリカに亡命したけれど、韓国・朝鮮人はかつての宗主国で加害国日本にやって来た。
映画を観た後は釈然としない気持ちだけが残った。

同名の著書を購入し読んでみた。
著書では民族教育について行けなかったり、日本国籍を取ろうとしたり、等身大の在日三世の姿がありままま描かれていた。
在日問題で避けて通れない、彼の祖父母が来日したいきさつも丁寧に記載してある。
父方の祖父は終戦直後日本に移住。
当時の朝鮮半島では「このまま朝鮮にいたら戦争に巻き込まれて死ぬ」という噂があり、日本で「一旗あげようと」日本に来た。
母方の祖父母は朝鮮戦争勃発前に移住。母方の家は富裕階級だったので、動乱に乗じて財産を奪われるのを避けるために親戚揃って日本に来たのだ。
父方の祖母は可哀想に人さらいに遭ってしまい、日本に連行された。
ただし、誘拐したのは日本人か朝鮮人か不明。著書では
「さらったのが朝鮮人であろうと、朝鮮の農村からさらわれて来たのが分かっていたはずなのに雇用した日本人がいた」
「動乱の時代をいいことに悪魔に魂を売った奴が日本人にも朝鮮人にも当時はたくさんいた」
点に怒りをぶつけている。

ダラムサラで高僧に日本国籍を取るべきか否かの悩みを打ち明けたら(込み入った話なので通訳もつけた)、あっさり日本国籍取得を勧められ拍子抜けしたことも書いてあった。
韓国の空港ではパスポートを提示して徴兵免除の手続きを取っていることまでも記載。
著者はずいぶん率直な人だと思った。
そこにはいわゆる在日特権とやらを声高に主張して利権にしがみつく姿はなかった。
私のような日本人と在日の青年の距離が縮まるような作品だった。

是非読んで欲しい。

在日の青年のゆらぐアイデンティティからチベット問題を見ると、私たち日本人とは違う視点があると気づかされるだろう。

この本がいつまでも解決しないチベット問題・在日韓国朝鮮人問題に一筋の光明を与えるますように。


ニマの会