『7200秒の恋』  第三章  曇りのち雨 ~暗い朝~ | 未来を変える旅

『7200秒の恋』  第三章  曇りのち雨 ~暗い朝~

朝、いつものように目覚まし時計が・・・鳴らなかった・・・

翔はまだ夢の中にいた。

ようやく目を覚ましたのは6時を回った頃だった。


『やっばっ!?寝過ごした!!』


時計を見ると、昨日の正午過ぎで止まっていた。

目覚まし時計は、壊れていた。

『ふぅ・・』とため息をつく。

ため息は、幸せを奪っていく。その力は地面に大きな穴を開けるんだ。


窓の外に目をやる。

もう太陽が昇りきってもいいはずなのに、外は暗かった。

空は、どす黒い雲に覆われていた・・・朝とも、夜ともわからないような、地球じゃないような空・・・

今にも ザァーーー っと雨が降ってきそうな重たい空。

暗くよどんだ街。



少しボォーっと考えてから、今日は日課をさぼることにした。

無断欠勤。

あの時以来の無断欠勤・・・



あの子と猫に会いたかったと少し、ほんの少しだけ想う。

羽のないカラスのノッコのことも気になった。

すれ違うおじいさんのことも。

みんな今日は何をしているんだろう・・・



しばらくの間、窓から見える街を眺めながらそんなことを考えていた。



見下ろすと、街路樹の間からあの喫茶店が見えた。
そういえばあの喫茶店の名前は『時間屋』という。

時間屋・・・時計のお店かと思うネーミングだ。

店の中はどんな空間なんだろう・・・時計が逆回転してそうなイメージ・・・

今度行ってマスターにネーミングの由来を聞いてみよう。



時計が壊れていて、時間がわからないせいだろう・・・
時間・・・部屋の中の時間は、いつも以上にゆっくりと流れている・・・



どのくらいの時間外を眺めていただろう・・・突然 ザァーーー という音とともに雨が降り出した。

すごい勢いで窓に、街に降り注いだ。


ザァーーー

ザァーーー

ザァーーー



部屋の中には、その音しか聞こえてこない。

いつも聞こえてくる電車の音、車のクラクション、街のすべての音がかき消された。


ザァーーー

ザァーーー

ザァーーー


神様が号泣しているのかなぁ・・・

翔は、熱くなったアスファルトに雨が降ったときの匂いが好きだった。

地球の汚れを洗い流してくれてるような・・そんな感じの匂いが。



普段はあまり観ないテレビをつけた。

天気予報では、台風がきたと言っている。

テレビの中のリポーターの傘がめくれ上がり、飛んで行く。彼は風に吹き飛ばされそうになりながらも懸命に状況を説明していた。

必死だ。

マイクの風防も役に立たないくらいに、風が彼をあおる。

彼の声よりも風鳴りが圧倒的に勝っていた。

映像の中の空もやっぱり暗かった・・・


テレビのボリュームを上げた。

ザァーーー

ザァーーー

ザァーーー

テレビの中でも、ここと同じ音が聞こえてくる。

ザァーーー

ザァーーー

ザァーーー


音がすべてをかき消し、すべてを消し去り、すべてを吹き飛ばした・・・

地球が飛んでいってしまいそうなくらいに・・・



翔はもう一度眠ることにした・・・
少し、怖くなってきたからだ。

地球の怒り?神様の嘆き?宇宙のざわめき?

あの黒い中に飲み込まれそうな、そんな感覚。

きっとこの地球上のどこかで同じように感じているひとがいるかもしれない・・・


ザァーーー

ザァーーー

ザァーー

ザァー

・・・。


雨音の子守唄の中、もう一度夢の中に歩いていった・・・




あの子・・・葵に会いたいな・・・あかね色に染まった彼女の後姿が脳裏に浮かぶ・・・










第四章  『台風一過 ~再び~』