☆ユスユデー企画☆ 蝶 Vol.5
綺麗に片されたベッドで、ジュンスが眠っている。
その両手両足に重りなどもう必要もなくて。
背中の傷の様子を見るためにうつ伏せ状態ではあるけれど、その寝顔は安らかなように見える。
あの後、ジュンスの状態を見たヒョンはどこかに電話をした。
ジュンスの傷口に簡単に応急処置をし、青く染まったシーツを取り除き、マットレスにまで染み込んでいるのを見てまた電話をした。
後から気づいたけど、最初の電話は医者…とは本来呼べない男で、後の電話はヒョンのマネージャーだった。
男は一瞬ジュンスの背中を見ると不思議そうに首をひねったけど、羽があった背中の部分を診、縫う必要は無いと短く言って処置の仕方をジェジュンヒョンと俺に簡潔に説明して帰って行った。
また、マネージャーはどこからか新しいマットレスとシーツを持って来て、これまた何も言わずに帰って行った。
この非日常で不可思議な状態を見て行動を起こせるジェジュンヒョンが、俺には信じられない。
冷静で的確な判断をしたヒョンがマジで神様に見えた。
ジュンスをベッドに寝かせるころ、俺はヒョンに全てを話した。
ジュンスの身体が浮き上がること。
蝶の羽のこと。
一か八かの掛けに出たこと。
俺は全然冷静に話せなくて、行ったり来たりの下手くそな話になってしまったけれども、ジェジュンヒョンは最後まで黙って聞いてくれた。
そして、聞き終わったら結構な力で胸ぐらを掴まれて投げ飛ばされてしまった。
「馬鹿野郎!!!なんで早く話さねーんだよ!!!自分らだけで解決できると思うなっていつも言ってんだろ!!!」
ヒョンは握った拳を震わせていて、本当はもっと殴りたかったに違い無いけれど、
それだけで許してくれて。
俺はまた少し泣いてしまったんだ。
あんなに大きな羽をあれだけ力を込めて毟り取ったというのに、ジュンスの背中に残るのはほんの小さな傷だけだった。
今は青い液体は出ていなくて、傷口からは変わりに赤い血が流れている。
それを消毒し、数時間おきにガーゼを取り替えるだけの処置で済んだ。
それから、ジュンスの傍らでうたた寝をしながら俺は夢を見たようだ。
青い蝶がどこからかやってきて俺とジュンスの頭上をひらひらと一周廻るように飛ぶと、ひらりと俺の目の前に止まった。
ゆらりゆらりと動く青い羽が俺に目眩を起こさせる。
それでもその蝶を見つめると、そいつも俺を見つめているようだった。
そうして、ふいっと音もなく飛び上がるとどこかに消えてしまったんだ。
シーツの上には青い燐がうっすらと残されていた。
「…ん」
窓から差す明るい光と、どこからか漂う美味しそうな匂いに目が覚めた。
ジュンスが眠るベッドの傍に座り、それに伏せて寝てしまっていた俺は勢いよく身体を起こす。
慌ててジュンスを見ると、昨夜と同じようにうつ伏せになって眠っている。
その顔が穏やかで、俺は安心して座り直した。
耳を済ませば、コトコトと鍋が揺れる音と包丁で何かを切っている音がする。
…結局ジェジュンヒョンも、心配して朝までここにいてくれたようだ。
きっと眠れなかっただろうな。
そう思って俺は少し笑った。
ゴソ、とジュンスが身じろぐ。
シーツが縒れて波のような模様を作り出した。
「…」
ジュンスの目が開いて、じっと俺を見つめた。
パチパチと何度か瞬きを繰り返し、だんだんとその目に光が宿ってくる。
「ユチョン」
そっと俺に手を伸ばすから、俺はその手を取ってぎゅっと握った。
「…あ、僕浮いてないね?」
小さく呟いてクスクスと笑う。
「ジュンス…背中どう?痛くない?」
俺がそう聞くとジュンスは目だけで頷いた。
ホッと息を吐いてジュンスの髪を撫でる。
何度もそうして撫でていると、昨夜のことが胸に蘇ってじんわりと涙が滲んでくるのが自分でも分かった。
「…ジェジュンヒョン来てくれたんだね。この匂いなんだろ…お腹空いたなあ」
きっとジュンスも分かっている。
俺の手がふるえていること。
涙が溢れて止まらないこと。
「よ、よかった…ジュンス、よかった…」
とうとう俺は我慢ができなくて、ジュンスの手を右手で握りながら泣いてしまった。
「もう、ユチョン泣きすぎだろ~」
ふふ、と優しく笑うジュンスの目にもうっすらと涙が浮かんでいる。
「ありがとね、ユチョン。すごく怖い思いをさせて…ごめんね」
ぶんぶんと首を振ると、ジュンスの手に力が入った。
「これからも僕、ユチョンの側にいられる…」
ジュンスはゆっくりと瞬きをした。
「あのまま僕に重力が効かなくてどこかに飛んで行ってしまっていたら…僕が一番怖かったのはユチョンの側にいられないことだったよ。
一人ぼっちで。永遠に一人ぼっちで、空にしかいられなくなるんだって、そんな風に考えていたから」
ああ、やっぱり。
普通に振る舞おうとしていたジュンスは、やっぱりそんなことを考えていたんだな。
自分に重力がなくなるなんて、そんな奇想天外なことが起こるなんて。
「ふふ。でも、ちょっと気持ち良かったかな。空中を移動できるってさ。子供の頃の空を飛びたいって夢が叶ったんだから」
ちょっといたずらっ子のように笑って話すジュンス。
…ジュンス、大好きだよ。
「ジュンスが空にしかいられなくなっても…俺はジュンスをずっと側に捕まえておくよ」
「どうやって?虫籠に入れる?」
ジュンスは冗談を言って笑うけれど、俺にはそれは冗談なんかじゃない。
大きくて白い、豪奢な虫籠を作ってその中にジュンスを入れようと思う。
俺にしか見えない青く美しい羽を愛でて、その歌声を聞いて。
俺だけがジュンスの存在を知って、眠る時は俺もその虫籠に入って一緒に眠るんだ。
「…そうだな」
その短い俺の返事で、おそらくジュンスは全てを悟ったんだろう。
だって何度か見たことのある、困ったようなけど嬉しくてし仕方が無いような。
そんな複雑な顔をして笑ったから。
「…バカ」
そう言って笑うジュンスは蝶よりも何よりも綺麗だ。
そっと頰を撫でるとジュンスが静かに目を閉じた。
キッチンの幸せな音に混じって、ヒョンの歌声が聞こえてくる。
ジュンスと俺はちょっとだけ顔を見合わせてクスクスと笑って。
そうしてそのままキスをした。
それは愛おしさに溢れた、熱い口づけだった。
END
おはようございます〜。
これにて「蝶」終了です。
私のユスユデーも終わりました。
…ホントすみません。こんなにも引っ張ってしまって…。
結局なにも謎を解明しないまま終わってしまいましたねえ。
裏設定はちょこちょこあるんですが、盛り込めず。
力不足でございます。。。
このお話は実はスピンオフ的なお話で、本当は長編の別のお話がある、とかだったらいいのにな〜←
大学教授が発見した民族のお話が本当のお話とかね。
私に力量があれば書くのに…無理ですわ。
と、いうことで。
読者様、ユスユカンパニーの皆様。
素敵な企画を立案し、声を上げてくださった朔蘭社長。
どうもありがとうございました!
楽しかったです♡
実はまだお邪魔できていないお宅がたくさんあります。
ぼちぼちゆっくりお邪魔させていただきますね〜。