コロナウイルスが大流行して落ち着かないしょぼん今日この頃ですが、如何お過ごしでしょうか。本当に何時かかってもおかしくないとの事で、怖いですが、罹らない様に気を付けて過ごしたいものですね。さて、今日紹介するのは、ブッカー賞も受賞したイギリスの現代純文学作家、イアン・マキューアンの『Atonement (邦題:贖罪)』です。

Atonement (邦題:贖罪)

Atonement (オーディオブック)

 

ストーリーは、20世紀前半の英国が舞台。1935年夏、13歳の作家志望の主人公、ブライオニー・タリスは、両親と郊外の屋敷に暮らしていた。大学に通う姉のセシリアや兄のリオンがそれぞれの友人や恋人を連れて実家に帰省し、タリス家には北部から従姉妹達もやって来る。皆が久しぶりに集まる場で自作の劇を披露しようとうずうずするブライオニーだが、双子の従兄弟達が居なくなり大騒ぎになり、結局劇は中止になってしまう。時同じくしてセシリアと彼女に思いを寄せるリシアの幼馴染で、一家の使用人の息子であるロビーの「ある現場」を目撃してしまったブライオニーは、ロビーに強烈や嫌悪感を抱いてしまう。行方不明になった双子の従兄弟を皆で探しに行った時、タリス家の従姉妹で双子の兄弟の姉のローラが不幸にして何者かに襲われてしまい、ロビーの事が信じられないブライオニーはあろうことか証拠もないのにローラを襲ったのはロビーだと大人たちに告げてしまい、その言葉を信じた彼らの通報によりロビーはローラを襲った犯人として刑務所に入れられてしまう。ロビーに惹かれており彼の無実を信じているセシリアはこの事件がきっかけでタリス家と連絡を絶ってしまい、数年後、軍隊に加わり戦場に送られたロビーへの想いもあり、看護婦になり負傷した兵士の看護をする事になるのですが・・・。

 

という感じです。登場人物が多い上に複数の出来事が同時に展開していくので非常に読みにくいのですが、語り手でもある主人公・ブライオニーの思春期特有の衝動性だったり、他人に対して抱く嫌悪感や自分への罪悪感といった複雑な心の動きが非常に上手く描かれており、読み応えがあります。ティーン・エイジャーというこの時期特有の繊細且大胆な揺れる感情表現の秀逸さは、同じくティーンの女の子を主人公にしたフランスの小説「悲しみよこんにちは」なんかに通じるものがありますね。それにしても、登場人物達のすれ違いに次ぐすれ違いがもどかしくて悲しく、読んでいる身としてはやきもきさせられたり、途中で「この展開ってアリ!?ぶー」と感じる箇所も出て来て、人の感情は一筋縄ではいかないという事を再認識出来る小説でした。そういう意味でも純文学の王道作品と言えるでしょうね。その手の作品が好きな方や、ほろ苦く物悲しいけれど、人間の良さを描いている作品が好きな方に特にお薦めの一冊です。グッド! 雰囲気としては、ノーベル賞作家のカズオ・イシグロに近いでしょうか。文体も絵画を見ている様でとても綺麗なので、その点でも色々な方に読んで頂きたい作品ですね。

 

シアーシャ・ローナン、ジェイムズ・マカヴォイ、キーラ・ナイトレイという英国を代表する若手俳優主演で「つぐない」というタイトルで映画化(ブライオニー役のシアーシャ以外は「プライドと偏見」の監督と主演俳優チーム音譜)され、映画がゴールデン・グローブ賞等数々の賞を受賞したので、そちら経由でこの作品を知った方も多いと思います。文体も美しいですが、映画もその文体を表現するかの様な美しい映像美が見事ですおーっ!

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英語は、文法はそれほど難しい訳ないのですが、純文学だけあって一見何でもない描写に登場人物の心の動きが表現されていたり、比喩の多用や直接的な言い方を避けていたりと、これは日本の純文学を読む時にも言える事ですが、英語力とは別の「文学の読み方」のテクニックが必要なので、その辺が苦労する所です。なので、日本語でそういった類の本を読み慣れている方はそれほど難しく感じないかもしれません。上にも書きましたが、文章が美しいので、そこも読み所です。

 

邦訳も出ています。

贖罪