何度、中止を覚悟したことか…。
もともと、2年前の豪雨で被災した絵下山の車道の工事が終わっていない。工事中のところ、区役所農林建設部の理解を得て、最小限人数の登頂を許してもらった。
そして、新型コロナウイルス感染防止対策として、密集を避ける目的で、日本中の大小さまざまな行事が中止・延期に追い込まれた。あのオリンピック・パラリンピック東京2020さえも1年の延期となった。
絵下山頂の発煙に合わせて、それが見える公園などでの集会イベントも検討していた。しかし、密集を避けるため、集会イベントは諦め、山頂からSNSにライブ配信をする計画に切り替えた。
5月28日には、区役所スタッフとともに電波状況をチェックに上がった。途中、いくつもの工事現場を通過したが、大規模なもので時間がかかるのも致しかたないと感じた。それほど、ダメージの大きい災害だったのだ。
人間同士の接触を減らすため、オンラインによるイベントや会議が工夫された。
私たちののろしリレーは、そもそも、インターネットで繋がるものである。ステイホーム生活を続ける人々がSNSで流行させた「チャレンジ」や「バトン」と呼ばれる、特定のテーマで写真や話題をリレーする行為は、フェイスブック上ののろしリレーによく似ている。
今回は個人が自宅でできる「ミニ狼煙」に注力することにして、狼煙線香と狼煙コットンの無料プレゼントを行うことにした。
6月23日には中国新聞に掲載され、多くの人が参加を申し入れた。「何もできない」という閉塞感、個人からも団体からも、「何かしたい」という思いが伝わってきた。
絵下山頂から発煙筒を焚いてライブ配信、という案で準備を進めていた。雨天のことも考えないではなかったが、それほど詰めてはいない。
それが、1週間前の7月4日。熊本を中心に九州を豪雨が襲い、大きな災害が起き始めた。梅雨前線が南北に動きながら、全国に豪雨の長雨を降らせる。
矢野が豪雨災害に見舞われてから2年となる、7月6日には矢野小学校区にも避難準備情報が発令された。幸い災害が起きるほどではなかったが、絵下山の工事中車道は安全確認が間に合わないことになり、山頂発煙を諦めざるを得ないことになり、急遽広報を行った。前日から予定していた無線隊の記念局運用も登頂は中止となった。
昨年、代替会場とした矢野ニュータウン中央を調べたところ、先約があった。
苦肉の策は、煙の番人ことTBさんの畑であった。直前にも、広報用の発煙実験を行った。「雨合羽を着てできるくらいならここでやろう」と決め、「もし、それも無理なら」と矢野みなみ会館の部屋を予約した。
前々日に大雨警報が発表され、また、矢野にも避難準備情報が発令された。区役所のスタッフは防災業務が最優先となる。「会館でミニ煙」が濃厚になってきた。最悪、災害が起きた場合、事情を説明して、ライブ配信でスタートの号令は出したい。
「できない」とあきらめず、「できる方法」を考え続けた。
神様が最後で味方をしてくれたか、矢野の降雨は災害を起こすほどではなく、当日朝は、集合時間直前に避難準備が解除された。
令和2年7月11日(土)、午前7時。TBさんの畑で、実施することを決定した。現地に集合して、会場を整備した。
8時10分、ライブ配信実験。K副隊長製作のドラム缶レプリカを映しながら、雑談を放映。
9時10分。HRさんとM副隊長をMCに起用。撮影は私。
全員が台本「読み読み出演」。ゆるゆる感がよかったが、画面グラグラが落ち着かない。
9時20分。無線隊の紹介。
絵下山頂からの運用を断念し、前日から矢野東ベースにオペレーターを集め、巨大なアンテナを上げた。
ライブ配信は私のスマホを使っている。容量とヒートアップ対策で、数分やっては数分休む。その間には事前にセットした写真や動画をアップする。
9時25分からはなんと、広島東洋カープ、松山竜平選手が登場。
9時30分、開会式。
西日本豪雨災害をはじめとする災害の犠牲者に、新型コロナウイルスに感染して亡くなられた方に、哀悼の意を表して、黙祷を捧げる。
私が実行委員長として、「煙は空を見上げるアイテム。この空の下の会ったことない人に思いを寄せることは、他人への思いやりや敬意につながる」などとあいさつ。
ここで、オープニング動画、市長メッセージ、区長メッセージが配信される。
9時55分、発煙に向かう中継。TBさんのインタビュー、読んでいるのはバレバレなのだが、それでも味のある広島弁。
10時、カウントダウンからの発煙。
カメラは振り返って、中継隊の赤煙。
少し離れた小高い場所は、無線隊のKS隊長の家の墓所である。
西を見ると、黄金山がオレンジの煙を上げている。絵下山よりも前年の矢野ニュータウン中央公園よりも近い。肉眼でもはっきり見えた。
黄金山チームの新兵器だったらしい。
東の月ケ丘団地も見えるという。ちょっと角度が悪いかと思ったが、白い煙が見えた。
会場周辺が白煙に包まれる。なぜか感動的に感じる。
10時15分、セクシーダイナマイト先生と生徒の子どもたちの「タップ&狼煙音頭」を録画配信。子どもたちもこれまで、ほぼ毎回参加してくれている。今回、人数制限をするために、録画参加となった。
小6、中1、中3の3人だが、タップ歴は8年らしい。
恒例の書道パフォーマンスも録画配信。幟の字を書いてくださったTN先生の転任で、今回から皆実高校書道部。なんと前日放課後の収録。
新型コロナウイルスで休校も続き、部活にも大きな影響を及ぼした。3年生は、これが今年唯一で最後の活動になったとか。発表の機会ができたと喜んでくださった。
多くの人の思いが集まって、このイベントができている。
10時25分、エンディングに向けて、本隊も中継隊がいる墓所に移動。
最後の赤煙を噴射。
がんばろう日本! がんばろう世界!
見ぬ友と心結ぶのろしリレーと、言いながら配信を終了した。
幅8メートルもある書道部の大書の前で、記念写真。
よく、こんなおあつらえ向きののり面があったものだ。
全国の狼煙仲間のことについては、また別記事で。