iTunesでB.J. Thomasの “Raindrops Keep Falling On My Head”を落とした。まったく説明の必要がないほどの名曲だが、どういうわけかいままで僕のiTunesに入っていなかったので。

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ところで、なぜ今時分になって落とそうという気になったのかというと、それは、『神戸在住』第9巻を読み返したせいだ。この漫画はじっさいの神戸をモチーフとする詩情に富んだ情景描写で知られる作品だが、同時に、靴とか小物、本など、ちょっとしたものをさりげなく紹介してくれたりもする。これがまたいいセンスをしている。で、例の曲を採り上げているのは、単行本第9巻の最初におかれた描き下ろし「午睡・前奏曲」でのこと。サブタイトルに -- 「耳もとで 雨音が」辰木桂 -- と冠されたこの小品は、“Raindrops Keep Fallin' On My Head”のメロディーに、主人公・辰木桂がその場に合わせた適当な歌詞を即興で付けるという体裁で綴られている。

桂(即ち/あるいは別のモノローグの語り手)曰く、「心浮きたつ様な軽快な歌」。実際この曲は楽しい。しかし、ただ単にポップということではない。雨降りの時の沈痛なトーンや、すべての音が雨だれに融けてしまったような静けさといったことが、楽しげに跳ねるメロディーの底辺にしっかりと横たわっている。逆にいえば、僕たちがこの曲から軽快な愉しさを感じることができるのは、そうした通底音がブレンドのベースとして利いているからなのだ。情景描写に定評のある『神戸在住』がこの曲をモチーフに採り上げたのにはそういう必然性があった。

要するに、寂びが効いていることがミソなのだ。「午睡・前奏曲」では、黄色い合羽に身を包んで雨と戯れる少女を桂が眺める様子が描かれる。このとき視界に映ずる少女の姿は、祖母に手を引かれた在りし日の記憶と重なるが、それがたんなる甘やかなノスタルジーに留まるものでないということは、後に描かれるエピソードで明らかになるだろう。(『神戸在住』第10巻・完結編は11月発売予定。)

雨降りの定番ソングはたくさんある。そのなかでも、 “Raindrops Keep Fallin' On My Head” はすっかり古典的な位置にある。今日では Pet shop boys の “Home and Dry” が新たな定番の位置を獲得しているが、雨の日に備えてそういうのばかり集めたプレイリストを作っておくのも面白いかもしれない。
足を挫いて以来、日帰り温泉施設に足を運ぶことが多くなった。湯治目的というには通う回数も入浴時間も少ないが、それでも行くのは、鬱屈した気分を垢と一緒にサッパリさせることができるからだ。

それで、今日も行ってきた。愛知県新城市(旧・南設楽郡鳳来町)の湯谷温泉にある公営入浴施設、「鳳来ゆ~ゆ~ありいな」。れっきとした天然温泉である。大人は600円で入ることができる。

http://www4.ocn.ne.jp/~hourai/yu-yu-.html

今となっては少し年季の入った施設だし、なにか豪華な設備があるというわけでもないが、ただ入浴することだけが目的ならば必要十分なものが整っている。加えて、露天風呂が広い。それに開けた構造なので、良く晴れた日に行くと、スッキリと開かれた青空の下、宇蓮川を挟んで両側に迫る峰を見上げつつ、森林の薫りをほのかに感じながらゆったりすることができる。露天風呂といいながら、実際に行ってみると高いカベが迫ってくるようなところだったというのはよくあるパターンだが、ここは「露天」の名に恥じない出来といっていいだろう。

湯の方は天然温泉にしてはさらっとした感じなので、トロトロした感じを好む向きにはお気に召さないかもしれないが、その割りにしっかりした質感はある。上がってから良さがわかる湯という印象を受ける。

この施設に寄ったのは夏場以来だが、ここの露天風呂くらいになると、季節の流れとともに空気の質感が変わっていることをはっきりと知ることができる。今日の空気は夏場よりも軽く抜け、匂いの青っぽさが薄まっていた。この時ようやく秋の訪れを実感することができた。

帰りはベイシアに寄り、サンマを買って帰った。
先頃発売された竹本泉『ねこめ~わく5』(朝日ソノラマ朝日新聞社)を購入。

ねこめ~わく 5 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)ねこめ~わく 5 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
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地上で最も気の長い生きものは『ねこめ~わく』のファンなのではないかと時々思う。はじめは連載ですらなかったこの漫画、同じ設定の読み切りが不定期に書き継がれ、時間がたち、掲載誌は再三変わるうちに、読み切り作品のまま(!)単行本が出、続刊も出た。そして時は経ち、近頃は「夢幻館」という季刊雑誌できちんと連載中。読み切りが連載に発展する例は数あれど、こんなパターンは前代未聞だろう。

オビには「ねこめ史上最速の最新刊!」の文字が躍る。

…ま、たしかに早かった。雑誌連載されていただけあって、たったの(!)一年半で続刊が出た。1巻と2巻の間なんて、4年くらい空いていたからね。


ところで内容はというと、クロフの人物(猫物?)像と猫文明に関してちょっとシリアスな考察があったりする。こういうことが可能なのも、第三の人間・オスカがいるお陰なんだろうね。進化した猫たちが人間文明を盲信するというシニカルな世界観なだけに、こういう展開があると面白い。クロフとマーコの間に生まれた仔猫も登場するし、ダテに時間ばかり掛かっているわけではないのであった(!?)。


【追記】ついクセで朝日ソノラマと書いてしまったけど、朝日ソノラマって先月いっぱいで廃業していたんだね。既刊の書籍・雑誌は朝日新聞社出版本部が継承。
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寸暇を惜しんで、というよりむしろ、寸暇を狙って読んでいた桐野先生の『リアルワールド』を読了。筆致の冴えは相変わらず。しかし、売れっ子であり続けるためには、五通りの文体の使い分け程度はこなさなければならないということか。

といっても、やはり癖というものは出る。冒頭、ホリニンナこと山中十四子の章を読んでいるあたりは、何か既視感があり、「あれ?」と思った。しかし、ユウザンが語り手になるあたりまでくると桐野ワールドがバッチリ決まってくる。何となく村野ミロを彷彿とさせるキャラだけに。

ところで、「リアルワールド」と言うからには、その「リアル」が何を意味するのかが当然問われてくるわけで、はじめのうちは複数の女子高生の主観描写を積み重ねて「彼女らの生きる現実」(=通俗的な意味での「リアル」)を描くという意味かと読者は思うわけだが、そう思った瞬間、読者は作者の術中に陥り、一介のワトスンとなってしまう。やがて、事件が五人の意図を超えたレベルで展開し、意図せざる結末を迎えようかという段になると、「リアル」に関する通俗的な共通了解は敗退することになる。「リアルワールド」はもっと巨大で不可視で不気味なものだったのだ。

高校生の視点から描かれたこの本は、いずれも読みやすい桐野作品のなかでも、とりわけライトタッチでアクセスしやすい本のひとつだろう。しかし、さりげない相貌の裏には、かの『ダーク』に勝るとも劣らない殺傷能力が隠されている。そこには確かに深淵がある。でも、それをじかに見るとおそらく目が瞑れてしまうので、きちんと蓋をしてとっておこう。(O)
サッパリしたいと思った。

というわけで、普通のブログをめざしてコンセプト革命開始。

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