塩野七生 『ローマから日本が見える』 | 読書ジャンキーの本棚

塩野七生 『ローマから日本が見える』

塩野 七生
ローマから日本が見える

本書は、今も執筆中の『ローマ人の物語 』シリーズ中の、主に第一巻~六巻までの内容を、初心者向けに、コンパクトにまとめたものである。


紀元前八世紀まで遡るローマ建国から、王政、共和政を経て、帝政ローマへと移行し、「パクス・ロマーナ」と呼ばれる繁栄を謳歌する覇権を確立する時期までの、つまりは、古代ローマ帝国の興隆期を扱っている。


著者は、この本の中で、古代ローマ人の利点をいくつも挙げているが、その最大の長所は「敗者さえも自分たちに同化させた」ことに尽きるという。
この敗者同化政策は、建国以来、帝政全盛時まで、一貫していた伝統的政策であり、これがローマ強大化の最大の要因であったと説いている。


たしかに、ローマ帝国滅亡後の覇権国家は、いずれも、敗者(敗戦国、植民地)を占領・支配し、徹底的に搾取し、勝者と敗者の間に、埋めることのできない大きな溝を設けてきた。
が、そのやり方は、敗者の反撥と怨恨を蓄積させるだけなので、一時の繁栄は収めても、すぐに瓦解するものであったことは、歴史が証明している。


そう考えれば、古代ローマ人の「敗者をも同化させる」やり方は、人間というものを熟知した、極めて賢明なものであったといえるだろう。


著者の、古代ローマに対する思いには、贔屓の引き倒しのように思えるところもあるが(特にユリウス・カエサルを持ち上げすぎ)、この本を読む限り、古代のローマ人たちが、歴史上でも、傑出した人たちであったことに異論はない。


ということで、世界史上で初めての、かつ最長の普遍帝国を築き上げた古代ローマ人を知ることは、混迷している現代の世界情勢や日本の進路を考えるうえで、一つの参考材料になるかもしれない。



切れ味: 可







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