山田風太郎  『伊賀忍法帖』 | 読書ジャンキーの本棚

山田風太郎  『伊賀忍法帖』

山田 風太郎
伊賀忍法帖

かつて一世を風靡した山田風太郎の忍法帖シリーズ。
度々、版元を変えて出版されたり、映画化されていることからも、このシリーズの人気が、いまだ根強いことがわかる。


この山風・忍法帖の世界にはまった人は、ほぼ全作を読まなければ気がすまなくなるだろう。
逆に、この忍法帖特有のアクの強さ、荒唐無稽さは、性の合わない人には、拒絶反応を起こさせるだろう。
読者の選別をはっきりするという点では、作風は全く違うが、『野獣死すべし 』でデビューした大藪春彦と共通しているように思う。


で、本作『伊賀忍法帖』である。
物語の舞台は戦国時代。
超人的な忍法を駆使する根来僧たちに、新妻を奪われた若き伊賀忍者、笛吹城太郎が、仇を討つために復讐に立ち上がる。
いたって単純なストーリーである。
が、その攻防戦が、とてつもなく面白いのだ。
特に、奈良の大仏殿炎上や、法隆寺での空中戦は、見物である。


脇を固める人物たちも、曲者揃いだ。
日本史上でも、トップクラスに入る悪人といえる戦国大名、松永久秀。
不気味な幻術師、果心居士。なお、この人物は、芥川龍之介や、司馬遼太郎も、短編小説のかたちで取り上げている。
新陰流剣術の開祖で、いまも剣聖と仰がれる上泉伊勢守。
その流儀の後継者で、無刀取りで知られる柳生石舟斎(漫画のバガボンドにも出てくる爺さん)。
時代劇で有名な伊賀忍者の惣領、服部半蔵。
茶の宗匠、千利休。
いずれも、歴史小説の主役を張れる個性派の面々ばかりで、こののキャラクターたちが絡んでくることで、物語のスケールをより一層大きくしている。

虚実ないまぜの、まさしくエンタテインメントの王道をゆく作品である。


この作品が発表されてから、40年強が経っているが、古色蒼然としたところが少しもないのは驚きである。
その映像的な描写は、かえって現在の方が、受け入れられやすいのではないだろうか。


だから、本作をはじめ、忍法帖シリーズは、幾度となく映画化されている。
映画監督の食指が動くのだろう。
しかし、映像化された作品は、原作を冒涜するがごとき、稚拙な出来栄えのものばかり。
成功したといえるものは、残念ながら見当たらない。



切れ味: 良





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