国際独立映画会議の記・続(槌谷茂一郎)

 

(承前)

 9月4日。会議の第二日目である。製作協議委員会は、午前中を前日の如くルットマンが議長で、午後はプランポリーニを議長として、前日から引き続きの組合定款の修正案を終日協議した。上映協議委員会も、ローゼンフェルドが議長で前日同様、国際シネ・クラブ設立案およびその定款修正案の協議に、終日を費やしたのである。

 その頃の映写会には、オランダ作品、ヨリス・イヴェンスの「鋼鉄の橋」と、フランケン共作の「雨」。ドイツ作品では、ハンス・リヒター「金」と「ある試作」およびウーファの小実験フィルムが紹介せられた。

 

 9月5日。午前中は各分科委員会が継続せられ、その午後はこの会議中での呼び物、製作者の講演会が催されたのである。その時、エイゼンステイン、ルットマン、リヒター、バラ・バラーズの銘々は、各自最近の所感を述べた。今、その一つ、ルットマンが語った「音響の新世界」の大要を、左[下]に示すとしよう。この時ルットマンはドイツ語で述べた、それを解せぬ筆者は、その際、即座に通訳せられたフランス語からのノートを抄訳する。

 ──今日の、シネマ界の人間は、新しき発明の恩恵に浴しつつある。イマージュの声、騒音、響音、と、彼らの選択は自由になしうるのだ。またその表現の方法も、ますます堅実に、簡潔に、立派な潤飾を施されつつある。

 かように我々の前面へ、驚嘆すべき沃野が、ひろびろと展開せられた。

 かつて我々が、単なる眼球の世界への、光とヴォリュームの未知境を、ゆっくりと探究しつつあった如く、我々は今、音響の世界を発見しつつあるのだ──と私は信じる。

 フィルム創作家の愉悦! それは最も偉大なものであると、私は感じつつある。例えば私の場合──。予想外な騒音の新財宝を研究し得たとき。またはある時、鑑別心も好奇心も消え失せて、ただ盲探しにこの新しき境地をむさぼる……。と、そこからある生き生きした進歩を思いがけなく探し当てる──。こうした音響効果を、私の作品へ美しく飾り得た時の、私の──創作家の喜悦を想像していただきたい。かつてアメリカ人が発声映画適用前に、その製作せるフィルムを、彼らは「舞台劇の美化」と呼んでいた。これは実にキャラクタリスティックな名称ではないか? しかるに現在の彼らは、疑いなくサイレント・フィルムを流行遅れのものとして、それに代わる公衆への贈り物、それは発声映画──芝居からの新しき魅力──を彼らへ贈りつつある。

 これらはすべて恐るべきことでなければならぬ。それにこの混濁せる計画が不愉快で、また誤謬たることはまぬがれないのだ。私は「対話のフィルム」を咎めなければならぬと思う。何故ならば、芝居の慣習から全然解放される事が、現在では、何人もなし得ない、と私は感じつつあるから──。

 私は繰り返して言う。現在の我々は「音響の新世界」を完全に発見することへ、献身的でなければならぬのだ──と。私は永い間、喜んでマイクロフォンとカメラの研究へ、特別に没頭しつつある。こうして今から一ヶ年の後には、私もシネフォニック(cinephonique)の言語を、豊富に獲得するであろう。そこにただ一つ、私が徹底的に知得したいもの──それは音響のアトモスフェアーなのである。即ち同一の談話を同じ声で話されても、それがある室内、または他の場所で吹き込まれる時は、その響音に著しき相違が現れる。それは室の容形や、天井の高さ等によって聴感を変ずるのである。この種の研究は私もひどく感銘を与えられつつあるが不幸にして、未だ何らの収穫をもたらさない。丁度、私が最近、トビス社のために製作した小フィルムの内に、この種の研究が企てられている。それは理髪店の内部を製作したものである。ある確定せる時間に、すべてのお客が「ポォール」という名前の職人を呼ぶ。そこで私は約六の異れる声が、甚だ相違せるトーンで「ポォール」と呼ぶ急速な連続を獲得したのであった。

 ──たとえ、世の中の全部の人々が声画製作を企てないとしても、今後のフィルムはすべて、この音楽装置を適用しなければならぬと私は思う。そうすれば、各常設館の楽長の趣味如何によって、フィルムの価値がしばしば毀損されたような、従来までの損出はすべて除去されるのである。

 また、私は想像する。──すべての映画監督者が、同時に音楽者であること──は、そんなに遠き未来ではないと……。その時代を待つ間、この問題の最善なる解決策は、シネアストとミュージシャンが、その仕事における友誼と聡明なる一致和合に、努めることであろう。

 エイゼンステインが既に、私の『大都会交響楽』の伴奏作曲者エドムント・マイゼルと結べることなどは、何物かの成功をもたらすであろうことに、疑いがない。例えば私はその近作『世界のメロディ』の音楽を、私自身でリズムをつけたり、コンポーズすることは出来なかったのである。ある日私は[ウォルフガンク・]ツェラー[ゼエラー]の家で──私が決して憶測をたくましくすることを許されなかった──発見をしたのである。そうして私は、すぐに魅せられてしまった。ツェラーは、それほど私のフィルムを適切に表現していたのだ。私はもう、ツェラーの音楽なしには、自分のフィルムを見るに忍びなかったのである。

 私は最後に言う。それはシネマトグラフィックの真実なる品格がすでに音響を隔離し得ないものであることを私は信ずるのだ──と、私はすべての批評家の言に反対して、かように叫ぶことを憚からない。

 この講演会の後、独立映画運動への、各国の検閲およびクォターシステム制度改善に対する臨時協議会が催された。ドイツ、イギリス、オースタリー、フランス、イタリー、日本、の各国委員が集まって種々協議をこらした結果、本会議よりローマにおける万国教育映画学会、パリにおける国際知能連合学会[UNESCOの前身となる国際知的協力委員会International Committee on Intellectual Cooperation (ICIC) のInternational Institute of Intellectual Cooperationのことか?]、およびジュネーヴの国際連盟本部へ、動議書を提出することに議決して、議長ロべル・アロンが早速その調書に着手した。

 その夜の映写会には、フランス作品、マン・レイの「ひとで」デュラック夫人の「貝殻と坊主」キャヴァルカンティの「可愛い赤帽子[赤ずきん]」ブニュエルの「アンダルシア[アンダルージイ]の犬」、および日本作品「十字路」の断片二巻が上映せられた。

 

 9月6日、会議の最終日である。午前中、マッセを議長として総体会議が開かれた。その時、製作組合決議事項はその委員長レオン・ムウシナックによって、一方、シネ・クラブ決議事項はその委員長ロベル・ギュイエによって、その全部を報告せられた。

 なおエイゼンステインは、他のロシア委員(ジガ・ヴェルトフ、プドフキン)が、今度スイス政府より入国拒絶を受けたために、この会議へ参列しえず。しかして、この出来事が、本会議に対するソヴェート政府の誤解を招き、将来、本会議から生れる独立映画運動へのロシア参加に支障を来たすことを恐れて、本日彼自身からソヴェート政府へ宛て、長文の説明書を送ったことを報告した。

 その午後、再び総体会議が開かれて、残務の協議をなし、めでたくこの会議を閉会したのである。

 その夜、キャヴァルカンティが、彼の講演用として彼自身にモンタージュをした「シネマの歴史」と題するフィルムが上映せられた。それはシネマの原始時代、リュミエール作「リヨン工場の出口」「ヴァンセンヌ汽車到着」から、現代「ジャンヌダルクの受難」[裁かるるジャンヌ]に到るまで──その間の演出手法、演技、デコール、等の進展を見せる目的のために幾多の芸術的フィルムの断片を編集せる興味深いフィルムであった。なおキャヴァルカンティは病気のため、この会議の二日目にパリへ帰ったので、その際、同君の講演が聞けなかったのは残念である。

 

会議の決議

 それは左記[下記]、二つの創造であった。

 

1. 独立映画国際連盟(Ligue Internationale du film Indépendant)

2. 独立映画国際組合(Coopérative Internationale du film Indépendant)

 

 今、この両者の定款の、重要なる条項のみを摘載して、諸君へお目にかけよう。その全訳は、日本においてこの両者の運動へ、いよいよ着手の際、発表の積りでいる。

[以下、定款部分のかなはカタカナだが、読みやすさと入力の都合によりひらがなに直した]

 

 (リイグの定款)

 第一条。独立映画国際連盟 "Ligue Internationale du film Indépendant"(L.I.F.I.)なる名称の下に、一個の協会を組織す。その目的は、各シネ・クラブ間の永続的連絡、及び彼等の事業拡張と彼等の努力実施の平易を目標となせる同種の運動へ保証を与えることにある。

 第二条。リイグは、シネ・クラブ及び同一機関の正規会員、即ちそれは彼等の定款、彼等の内規により、より多くそれらを運行して効果的活動をせる者、又は左記条件に領って、総ての保証を表示せる彼等の統率者によって、その団体を構成するものとす。

(a)この機関は、何等かの理由の為に、普通の公衆的映写幕へ接近し得ざる所の、然して国際的芸術利得を持てる映画作品を、その会員或は公衆へ紹介する目的を持つ。及び映画の表現方法進展を助成すべき理論的と実用的の総ての仕事、併びに、総ての無譲歩的な映画芸術運動奨励のための、あらゆる方法を司るものとす。

(b)この機関は、その統率者、又は一人、或は数人の会員のみの利する如き目的は、絶対に所持するところなく、その行動を継続するものなり。機関が実現せし総ての利益は、一重に、機関の強固及びその運動の生長を計ることへ使用すべし。

(c)この機関は、総ての宗教、政治、の問題を外にする芸術的考察によって、独特に指導せらるるものとす。

 第三条。リイグの会員は幹部評議員によってその金額を決定せられたる年額出資及び入会金を支払うべき義務を有す。

 第四条。この機関の構成は、リイグの会員としての同一目的にある人事より成るものとす。但し、被選挙資格条件不承知の者と雖も、リイグ外部通信員として登記をなし能うべし。而してその者は、幹部評議員会にて規定せる条件に従うこと、及び総会の際、投票権を有せざるものとす。

 第五条。リイグの機関は、総会、評議員会、事務所、より成立するものとす。

 第十二条。リイグの本部をジュネーヴへ設置す。但し、評議員の決議が、三分の二の得票を見るときは、他の都市へ移転し能うべし。 

 

(リイグの事業計画)

I 各シネ・クラブ担当事務の便宜のために。

1. プログラムの準備と作製。

(a) シネ・クラブによって紹介可能なる現存のフィルム、或は各国より将来さるべきそれ等の目録調製。これ等のフィルムは、各シネ・クラブ(会員たる)の研究、或は映画雑誌へ発表せられたる権威ある記事に基き、指定されたるものなることをことを要す。

目録は、フィルムの特色の審議へ必要なる総ての細項を含有すべし。(フィルムの長さ、解説、写真、フィルムの持主より供給の、重要新聞雑誌に掲載せられたる批評、その他、シネ・クラブによって成りたる臨時審査書)及びフィルム貸与条件(価格、責任者、運輸条件、関税)

(b) 目録へ記入せしフィルムを、各シネ・クラブよりの求めに応じて巡回貸与を実施すること。その際は貸与料金の廉価及び関税、運賃等の軽減を充分に計ること。

(c) この巡回映画ライブラリイ(Cinémathèque Circulante) 運行の際の可及的経済と最善の保証を与うるために、各フィルム所有主の連盟意向による、フィルム中央倉庫の設置。

2. 各シネ・クラブの国際的運動のために。

(a) 各シネ・クラブの国際的運動に関する総ての説明書類(定款、内規、宣伝状況、法規、ポスター、etc)を蒐集して、会員のために具えること。

(b) これ等の異なれる物品の類別書、作製。 

(c) 設立されたる各シネ・クラブの状態を、より強固にすべき方法の研究。 

3. 各シネ・クラブ加盟者の芸術的教化へ貢献を計るために。

(a) 総ての会員のために。記録されたるフィルムの特色、批評、その包含せる企図、そのフィルムに関する講演開始の方法、その他の説明書、等一切の便宜を具えること。

(b) それ等の講演準備をなせる映画界知名人士の名簿調製。

(c) 時に応じては、興味ある雑誌、その一部の印刷物を、各雑誌社と協定の上、参同の各シネ・クラブへ配付を実施すべし。

II 各シネ・クラブ運動の拡張。

(a) シネ・クラブ新設希望の会員のために、その必要なる総ての便宜を準備すること。

(b) その事業へ協力可能の人々によって成されたる意見書の調製、蒐集。

(c) それ等、シネ・クラブの運動へ好意を呼ぶべく、各新聞雑誌に必要なる、その宣伝方法の整頓と着手を計ること。

(d) それ等のシネ・クラブと共に、幾多の映画雑誌等にも最大努力の出現を期して、その手腕へ努力すべし。

 

 (組合の定款)

 第二条。協会は「独立映画国際組合」 "Société Coopérative Internationale du film Indépendant"(C.I.F.I.)なる名称を採用して、不定額の資本金を有つものとす。

 第三条。協会はフィルムの創作、譲与、輸出入、の際、敢えてその国民性に偏重せず。又商業的目標に対しても、あらゆる自由意志の下にあって、シネマの表現方法の改善と奨励の精神を拝持し、常に、人生的本義の増進を計りつつ、その事業を継続すべき目的を有つものなり。

 而して、直接、或は非直接に当面し來るべき動産、或は不動産、及び殖産、司財、等、総ての商的行為と雖も、常にこの重要なる目標へ置かるるものとす。

 第五条。協会の本部をパリに置く。(rue de la Victoire,49) 但し、幹部評議員会の簡単なる決議によって、同都市の他の位置へ移転することあるべし。或は下記五十二条に制定する如く、株主総会の決議の結果、全然他の都市へ転じ得るものとす。

 第七条。協同資本金を仏貨弐拾万法(200,000Frs)と定む。然して仏貨百法宛を一株として、既定資本金を二千株に分割すべし。これ等の弍千株はその全部を解散して各人へ配分すべし。

 第八条。協同資本金は、新加盟者によって、或は下記五十二条に制定せる、年々開催の株主総会の審議によって、その増額をなし能うものとす。然して、毎年の増資額は、二〇〇、〇〇〇法を超過することを能わず。

 

 「芸術委員」

 第三十八条。幹部評議員会によって選定せられたる、六人から八人までの人員にて成る芸術委員会の構成を実施すべし。これ等の委員は重要なる各国の製作家中より、完全なる人選を期待するものとす。

 これ等の委員は、映画の、創作、売買運行、に於ける、芸術、技術、工業、商業、等のあらゆる対照的な研究に努力すべき使命を持つものとす。然して、それ等総ての抱負、所得を常に幹部評議員会へ提出すべし。

 この委員は必要に応じて、漸々会合するものとす。それは幹部評議員会或は二、三人の委員の決議の結果、その委員長、或は初期によって招集を実施せらるものとす。

 委員会の決議事項は、各委員一票を規定として、出席委員投票の結果、その得票多数によって決定すべし。同等得票の場合は、その委員長の投票によって優越するものとす。

 芸術委員の意向如何に係らず、代理権の投票をなす能わず。

 各委員自身にて確定せる、その委員間に分配すべき、芸術委員への報酬は、幹部委員会の承認を俟って実施をなし能うべし。

 

検閲制度及びクォター・システムに対する動議書

 

 一九二九年九月二日より七日まで、ラ・サラア城に会合せし独立映画国際会議は、アンドレ・ジイド、マリネッティ、ピランデルロ、ワルド・フランク、ステファン・ツヴァイク[ゼウィック](以下略)の諸家を名誉委員に頂き、左記団体の代表者による完全なる構成の下に開催せられたのである。

 オランダ──フィルム・リガ。パリ──フィルム・クラブ。スペイン──シネ・クラブ。ジュネーヴ──シネ・クラブ。ロンドン───フィルム・ソサイティ。パリ──シネマ誌。等々。

 これ等各国の鑑賞者、その総計約二五、〇〇〇人が今回結束せる理由は、即ちフィルムの創作に当り、商業的目標にある総ての影響を度外視して、常にシネマの人生的本義増進の精神を守り、その製作と実現の目標へ邁進しつつある独立映画を擁護するためであった。その独立映画、それは絶対的に商売映画の手法と混同し得ざるものであって、又、決して、彼らへの如き狭隘なる限定を下だし能わぬのである。

 商売映画と独立映画との錯誤的な同一視が、もらたせし忌むべき現象は、現在、独立映画の進展へ大なる妨害をしいつつある事は、否まれぬであろう。そのしいられつつあるものとは、商売映画へ当然なる手段として以外、明らかにその公平を無視せるところの、各国検閲制度、フィルム輸入税、クォター・システム、なのである。

 国際独立映画会議は、その独立映画運動の特別なる地位から、それ等改善策の適用を、切実に希望する次第である。

 然して、先の我らが希望は、実に国際的行為として、各国への速やかなる適用を、各委員は厚く期待しつつある───と我々は言明する。

 

1. 商的映画上映館のために、制定せる検閲制度以外、特別鑑賞会の組織にて独立映画のみを常に上映する機関のために、より峻烈ならざる特別検閲制度実現の獲得を希望する。然して、それ等は他の上映館の公衆は見るが如き同一の危険───倫理、政治の目的───へ一切関与せざる、極めて制限を施せる公衆であるがために───。

2. 特別の機関、或は上映館のみへ、上映の目的にあるフィルムに対して、クォター・システムの問題は全然無益である事を、我々は確信する。それは極めて制限されたるこれ等の館の公衆が、国産フィルム擁護の目的へ、危険をもたらすが如き恐れは絶無であろう。よって我等の独立映画のみに対するその制度の廃止を、我々は切望する。

3. この同じ理由の下に、同種の機関及び上映館へ映写の目的にあるフィルムに対して、その輸入税に撤廃、或は軽減の実現を希望する。

 

 この動議書は、左記[下記]各国委員によって署名されたのであった。

 (議長)アロン。(スイス)ギュイエ。コーレル。(日本)肥後。槌谷。(イタリイ)プラムポリニイ。サルトリス。(オランダ)フランケン。(フランス)ムウシナック。キャヴヮルカンティ。オーリヨル。(スペイン)キャバレルロ。(オースタリイ)ローゼンフィルド。(イギリス)モンタギュイ。イザック。(ドイツ)リヒター。バラーヅ。(アメリカ)エヴヮン。[表記原文ママ]

 

 

 (その他の決議事項)

 A、独立映画国際通信機関の設立。

 B、国際映画図書館の設立。

 このライブラリイの創立に就いては、恰かもパリの人、ジャック・ドゥーセ[デウセエ]氏が既に個人的事業としてその準備をなしつつあるのを幸い、同氏より協会へその蒐集品の寄贈を乞い、このライブラリイ最初の基礎となすべく協議をしたのである。そうしてドゥーセ氏と親交のあるムウシナックが、その交渉の任へ当たってくれる事になった。

                    (以上、会議記録より)

 

 

(附言)

 最近、組合本部から筆者の許へ報知があった。それはいよいよ株式募集に着手の事、及び組合最初の事業として最近に実施さるる左記[下記]四つのギャラ(Gala)を報じたものである。

 

1. メリエスの会 (Gala Méliès)

  講演 ルネ・クレール

 1907年頃、フランス映画の驚異たりし、ジョルジュ・メリエスの巧妙なるトリックについて、ルネ・クレールが新しき研究の発表。

2. シネマ総繰越の会 (Gala "Les Grands Reportages Cinématographique")

  講演 レオン・ムウシナック

 a、劇的ニュースリールのフィルム。──大珍事、天災、地震、──等々。

 b、製作者によって成されたる実写フィルムの断片。キャヴァルカンティ(時の外何物もなし)及びヴェルトフ、ルットマン、ロード、ガリテジイヌ[?]、etcの作品。

3. 「シネマの歴史」の会 (Gala "Historique du Cinéma")

  講演 キャヴァルカンティ

 解説──会議記録中の文を参照。

4. 抒情実現フィルムの会 (Gala "de la Réalité au Lyrisme")

  講演 ジャン・キャッスゥ[Jean Cassouか?]

 モアナ、ナヌーク、等の大実写物から、キートン物、或は「アジアの嵐」に到り、マン・レイ、ブニュエルの作品に終る──各フィルムの断片。

 

 この会議が生める二つの創造──それが一日も早く、日本において構成されんことを祈りながら──。(完)   (パリ、一九二九、十月) [再録了、351号掲載分]