<ここまで第1>



3. ハラスメント・リスク

 

 退職勧奨を拒絶すると、諸々のハラスメントぎりぎりの各種の合法的(脱法的)嫌がらせが待っている。ネット検索や書籍で使用者(会社)と労働者(会社員)の両側からの体験談を読み、


「おっ! あの手か! そうきたか!」


と余裕をもって対処できると良い。

 ハラスメントや嫌がらせの種類や内容は多岐にわたっており、ネット検索の結果に譲る。

 座席を取り上げたり、言い掛かりをつけて大勢の面前で罵倒したりするような、原始的な方法もあるかもしれない。使用者の多くはそのような明らかなハラスメントはしてこないだろう。やれば使用者にとって不利になるわけだから。

 そして、パワハラのガイドラインも公表されている(厚生労働省のサイトなど検索されると良い)。よほど情報収集していない使用者でない限り、あからさまなパワハラはしてこないだろう。


 ところが、ネット記事やマスコミによれば、直接的なパワハラは現実的にまだまだあるようだ。労働者にも労働法のイロハについて理解を期待し、対処方を身につけてもらいたい。私事、いわゆる非正規雇用者の親族の一人に聞いたところでは、雇止めに際して辞めなければ家族に迷惑がかかるとか、次の就職に悪いとかいうような強迫まがいの言動で、パワハラがあったようだ。本人もそれで『会社都合』ではなく『自己都合』で退職した。小さな町では、商工会議所の集会や議員・役場との情報交換で、『個人名』が挙がることを否定はできない。

 対処法は、A泣寝入り、Bある程度説得、C徹底抗戦である。個々の自らの状況に応じて決めることになる。筆者としては、A -Cを選べる程度には、労働者の権利についてのリテラシーをもってもらいたいと思う。前述の親族の判断が間違っていると断定はできない。しかし、『会社都合』の退職にしてもらう主張できる程度の知識をもつべきではなかったか、というのが本音である。

 現行法下での『パワーハラスメント』の定義をぜひ一読してもらいたい。そのうえで、退職勧奨後に上司、同僚、部下、人事、経営者から使用者受けた『ぎりぎりの』言動がパワハラになるのかどうか、自分なりに考えて、置かれた状況や環境を考えて、自分に最も合う対処法を考えなければならない。



4. 転勤・配置転換リスク

 

 一般に、使用者は配置転換の権限(配転権)をもっている。雇用契約及び就業規則には配転権が記載されている。勤務地と職種が雇用契約に記載されている場合でも、使用者(会社)は配転権を留保しているのが通常である。

 退職勧奨を拒絶すると、使用者は配転権を行使してくる可能性がある。賃金を下げることは非常に困難だが、配置転換であれば比較的容易であり、現在の職場・部門や勤務地から別の職種や勤務地への転勤を命じるかもしれない。

 配転権の濫用だと理由付けられた裁判例は確かにある。しかし、『濫用』を労働者は証明できるだろうか?雇用契約と就業規則には使用者の配転権が明記されている。自分の弁護士を納得させ、そして代理人弁護士は裁判官に濫用ありの心証を形成させることができるだろうか。

 むろん配転先で心機一転頑張るという精神論はある。ここまで読んできた読者諸氏であれば、それは夢物語だとお分かりでしょう。


<以上第2> <つづく>