稲城市民オペラ、怒涛の《フィガロの結婚》公演から一週間が経ちました。

 

このブログも、ずいぶんお休みしてしまいました。

 

その間、色々と、本当に色々とあったのですが(何も特別な事をせずに6キロ近く体重が落ちました)、そのあたりの事情は改めて書くとして、まずはこのブログでは、《フィガロの結婚》の報告と御礼を書きたいと思います。

 

今から一週間前の6月21日、我らのホーム稲城市中央文化センターホールにおいて、稲城市民オペラ第十回公演、《フィガロの結婚》が無事上演されました。

 

当日は本当に沢山のお客様にお越しいただき、まことにありがとうございました。

 

退館時間が厳しいホールなので、一刻も早く撤収作業を始めなければならず、カーテンコールは拍手が鳴り止まない内から終演のアナウンスを入れました。熱心に拍手をしていただいたお客様方には大変申し訳ありませんでした。

公演は、この拍手から考えても、「大成功」と自惚れて良い内容でした。

私自身は撤収作業の関係でロビーでのご挨拶は出来ませんでしたが、お客様と直接お話をした出演者達は口を揃えるように「とても良い感想をいただきました」と知らせてくれました。

 

そんな「大成功」の公演でしたが、そこに至るまでの道のりは大変険しいもので、今回ほど出演者・関係者の力を有難く感じた公演はありませんでした。

 

まだ興奮さめやらぬ今だからこそ、まずはソリストの皆さんへの感謝をつづりたいと思います。

 

最初に、今回稲城市民オペラに初登場してくれた三人の優秀な歌手、伯爵夫人役の西本真子さん、フィガロ役の上田誠司さん、ケルビーノ役の大隈有花里さんに御礼を申し上げたいと思います。三人とも、今回のオファーを文字通り「二つ返事で」快諾して下さいました。ありがとうございました!!

 

西本真子さんとはオペラノヴェッラでの《蝶々夫人》以来13年ぶりにご一緒しました。歌唱力・演技力はもちろんピカイチ、何よりも役に挑む誠実さ、新しいチャレンジへの積極的な姿勢、ご自分への厳しさは他の追随を許しません。公演のレベルが上がった事はもちろん、西本さんが座組に居る事で他の出演者や合唱に与えて下さった影響は計り知れず、西本さんが出演オファーを受けてくださった事で今回の成功は保証されたと言うことができると思います。

 

今回の演出のキモである「伯爵夫人の物語をきちんと描きたい」という思いも、西本さんはしっかりと受け止めてくださいました。ありがとうございました!

 

ともすればオペラ後半、物語の中心から少し外れたような印象を受ける事の多い伯爵夫人ですが、西本さんの存在感とアプローチは、そんな印象を全く与えず、二つのアリアの素晴らしさにあわせて、この作品本来の輝きに満ちていたと思います。

 

無茶ぶりの、アリア中に投影した「セヴィリアの思い出動画」も、ノリノリで受けてくださってありがとうございました!

 

タイトルロール、フィガロの上田誠司さんとは、にっぽん丸オペラクルーズでの藤原歌劇団公演《フィガロの結婚》以来でした。

その前の藤原歌劇団公演でフィガロ役を大変な努力で好演、そのエネルギーをにっぽん丸の限られた空間でも爆発させてくれた上田さんにぜひお願いしたかったのが、「仕込みではない、フィガロとしての生の反応」でした。

そもそも優れた演劇作品がベースになっているオペラですから、ルーチンワークではないナマの舞台の情熱が今回の上演のテーマの一つでした。そんなテーマにピッタリのフィガロである上田さん、彼以外今回の公演のフィガロは考えられませんでした。

 

一曲目のアリア「もしもダンスをお望みなら」では、伯爵の悪巧みを打倒したい民衆達、というイメージで合唱団を出す演出、上田さんにはアドリブに近い芝居をお願いしましたが、これが思い通りの「男前」でした!ありがとうございました!この他、フィガロの最後のアリア「その目を少し開けてみろ、不注意で愚かな男ども」でも、スザンナの最後のアリア「さあすぐにいらして、私の美しい喜びよ」でも、一般的な演出に比べてかなり色々やっていただきました。見事でした!ありがとうございました!

 

「セヴィリアの思い出動画」もありがとうございました!もっと撮りたかった!

 

そして、ケルビーノ役の大隈有花里さん。今年から、若く優秀な、次代を担うオペラ歌手達が学ぶ、新国立劇場オペラ研修所に通うオペラエリートですが、昭和音楽大学では私の「教え子」でもありました。その時はあまり沢山教えてあげられなかったように思いますが、本人の努力と才能で、愛らしく端正なケルビーノを演じてくれるまでに成長しました。

そんなふうに上から目線で言うことができない程の出来、歌唱の安定感や芝居の適切さはもちろん、伯爵夫人の西本真子さんや私の家内でスザンナ役の川上真澄とも、仲良く、温かい舞台を作ってくれました。絶対に今後、偉大になる歌手です。皆様、注目していただきたいと思います。

才能に溢れ、努力を怠らない大隈さんにとても助けていただきました。ありがとうございました!

 

さて、稲城市民オペラといえば、この人たちを抜いては語る事が出来ません。

伯爵役の鶴川勝也さんと、バジリオ・クルツィオ役の岡坂弘毅さん。二人とも、稲城市民オペラ発足からの「レギュラー」で、歌唱・演技面での貢献はもちろん、いつも稲城市民オペラを支えてくれるムードメーカーでもあります。

二人がいるだけで稽古場の雰囲気がよくなる、という意味で、この二人の人柄の良さは何にも代えられない稲城市民オペラの財産です。

この「ムードメーカー」には、ベテランと呼ぶべきキャリアと存在感ある二人が真面目にやれば、他のメンバーの気持ちが引き締まる、という意味もあります。通し稽古では、この二人の「本気」が、あっという間に全員にうつりました。

 

鶴川さんの伯爵は、見ての通りの男前で、ちょっと引くくらいのかっこよさですが、同時に他の人には出せないくらいの好色な三枚目の面白さに溢れています。

そして何より、抜群の声の響きと歌唱力です。

稲城市民オペラの「格」を何段階も上げてくれる存在として、また、舞台を一瞬で笑いで包む、「面白キャラ」という意味でも、我々の大切な財産です。

ありがとうございました!というか、いつもいつもありがとうございます!

 

岡坂さんは、チラシのイラストを見ていただければお分かりのように、愛らしい表情の王子キャラですが(今回一番似た?)、ドラえもんと水曜どうでしょうとジャムパンをこよなく愛するという、得難い個性を持ったキャラクターでもあります。バジリオとクルツィオは、二枚目役が多いオペラの中では珍しい、キャラクターテノールの役で、昨年の《子どもと呪文》のカエルに引き続いて岡坂さんのユーモラスな面を楽しめる「ご馳走」でした。

私達が体調不良でご迷惑をおかけする中でも、いやな顔ひとつせず、いつも助けて下さったことも併せて、ありがとうございました!いつもいつもいつもいつも、ありがとうございます!

 

お二人とも「セヴィリアの思い出」動画、ありがとうございました! 鶴川さんのプロモーション動画みたいになりましたが。

 

さて、この二人と同じくらいの「古参」メンバーが、なんとバルバリーナの生田有里さんです。

しばらく稲城市民オペラを育児休暇していた生田さんは、小さい頃から名門・多摩ファミリーシンガーズでオペラに出演していた、全出演者中でも早くからオペラ・デビューをしていたベテラン歌手でもあります(ちなみに生田さんは私が藤原歌劇団の演出助手として参加していた《ラ・ボエーム》や《カルメン》にも出演していました!この《カルメン》には、合唱団長の高橋さんご夫妻も観劇にみえていたそうで、川上も含めて、五人は稲城市民オペラの誕生よりずっと前に、同じ空間に居たということになります)。

生田さんには忙しい中、久々の登場をしていただきましたが、子育ての合間の貴重な時間、稽古に一生懸命参加、一緒にバルバリーナ像を追求してくれました。初役にも関わらず、とても活き活きとしたバルバリーナを演じてくれました。特に、今回の演出の目玉、「ピンのエピソード」は生田さんと一緒でなければ思いつかなかった場面です。

四幕冒頭のアリアの意味深な不安、名前に違わぬ、この物語を掻き回し、登場人物中最年少に関わらず、他の全員を小馬鹿にしたようなエネルギー。稽古初日に一時間以上話し込んで一緒に作ったイメージを、見事に花咲かせてくれました。

 

お子さん達との毎日に大変な中、本当にありがとうございました!

 

そして、昨年の《カヴァレリア・ルスティカーナ》《子どもと呪文》公演から引き続きご参加いただいたお二人、マルチェリーナ役の片岡美里さんとバルトロ・アントニオ役の浜田耕一さん。お二人は、《子どもと呪文》の安楽椅子/ひじ掛け椅子という役に続いて「カップル(?)」でご登場いただきました。

今回《フィガロの結婚》を上演すると決めた瞬間からお二人にお願いしたいと思っていました。それくらい、「お似合い」で、二人が出てくるだけでなんだか「悪巧み」のゾクゾクするような面白い雰囲気がします。

お二人とも舞台に対する真摯さは抜群で、いつでもお客様を楽しませようという意志を感じます。

 

片岡さんはケルビーノを演じられる事が多いとの事、ぜひ見てみたいところです。が、今回の「おっかさん」、予想通り、というか予想を超えて、声も演技も最高でした。いつもいつも役を、舞台を身体いっぱいで楽しむ姿に力づけられます。

ありがとうございました!

片岡さんは大隈さんや生田さん、鈴木さんや大谷さんと同じく「元教え子」ですが、立派なアーティストとして活躍する姿は嬉しい限りです。

 

私は浜田さんにはいつも無茶ぶりをしますが、これは芝居に妥協のない、無類のエンターテイナーである浜田さんへの信頼感の裏返しです。今回は特に、スリリングな早替えも含めての無茶ぶり大会でした。予想以上の面白さ、さすがです!

バルトロの四番のアリアの、動画込みのビジュアルは、今回の私自身の自信作でもあります。やはり、というか予想以上の「オモシロイケメン」ぶり、とてもいい場面になりました。

アントニオの面白さはもう、疑うべくもありませんでした。たぶん、こういう役をやってこの人以上に面白く出来る人はいないと思います。

ありがとうございました!

 セヴィリアの思い出動画撮影もありがとうございました!他の作品でもまた撮りたいです。

 

チラシの二人の似顔絵は、ほぼ何も見ずに描きました(アントニオだけは違いますが)。それ位、二人のイメージはこの役にピッタリでした。

 

花娘役の「ねねななコンビ」こと鈴木ねねさんと大谷ななさんは、この数年稲城市民オペラを助けてくれる頼もしい「元教え子」です。

 

鈴木ねねさんは今年、大学院修士演奏会で日本初演の難しいオペラ《Le cinesi》に挑戦し、いつもいつも舞台では自分だけでなく共演者や子役を助ける頼もしい表現者です。今後も様々な舞台を盛り上げてください。ありがとうございました!

大谷ななさんは大学4年の授業でグルックの《オルフェオとエウリディーチェ》のエウリディーチェを、それはそれは熱心に勉強しました。ひょんなことから稲城市民オペラを手伝っていただくことになりました。嬉しいめぐり合わせでした。ありがとうございました!

 

二人には、「オペラ文化祭《スザンナの結婚》」では、無茶ぶりもいいところの「コロンビーナ」と「イザベラ」役を好演していただき、また、手探りの合唱団企画の範となり、団体に光を与えてくれました。

《フィガロの結婚》本公演では、本来花娘という役には課せられないような、私のしつこい要請を嫌な顔せず、というか、より発展させて演じてくれました。

二人なくして今回の公演は成り立ちませんでした。ありがとうございました!

 

そして、あまりの出番の多さから「《フィガロの結婚》というより《スザンナの結婚》というタイトルでいいくらいだ」と言われるスザンナ役を、この公演の制作をつとめながら、初役のスザンナを演じた家内、川上真澄です。

 

初役のプレッシャーと闘いながら、5月には、この時期猛威をふるっていたタチの悪い風邪に罹患し、ひと月以上まともに稽古出来ない状態から、驚異的な追い上げをして初役のスザンナを文字通り「等身大」に演じました。

 

公演では、共演者達、スタッフ達の支え、お客様達の笑いと拍手に励まされ、ご覧のような「人一倍スザンナらしいスザンナ」として初役デビューする事が出来ました。

 

本人としては、こうしたアクシデントから、必ずしも完全燃焼出来たわけではないようですが、「役を生きる」という、最も困難なことに大成功していました。思えば《椿姫》ヴィオレッタに始まり、《こうもり》のロザリンデ、《カルメン》のミカエラ、《ラ・ボエーム》のミミ、《愛の妙薬》のアディーナと、大変なヒロインに挑戦し続けてきた川上ですから、その積み上げと努力がスザンナ役を成功させたのかもしれません。

 

伯爵の「横暴」に困り果てる可愛いスザンナのイメージは、公演企画の当初に描きあげたチラシの姿そのままになりました。

 

そして、私が今回の公演の軸だと考えてきた、時が停まったかのような、世界を包む、和解の情感に満ちた最後のアリア「さあすぐにいらして、私の美しい喜びよ」は、彼女でなければ出来ない歌唱だったと思います。

本人も「全幕を通してからでないと出来ない」歌い方だったようで、これは、本当にあの歌を歌っていた雰囲気や状況を上手く表現している言葉だと思います。

今回の演出では、スザンナと伯爵夫人が前奏で手のひらを併せて輪舞して、その存在を溶け合わせさせたり、スザンナの「本心」を描く花娘達が、頭を抱えるフィガロに花びらを撒いたり、この歌に先駆けて歌われるフィガロのアリア「その目を少し開けてみろ、不注意で愚かな男ども」で喧嘩した、合唱団扮する村人達(アルレッキーノやコロンビーナでもある)が和解して、歌に聞き惚れたり・・・と、「てんこ盛り」の場面にしましたが、こうした事も含めて、彼女の公演への愛や共演者たちへの思いも、この表現に深みを与えていたのかもしれません。

 

カーテンコールでは、彼女の奮闘を讃える、いい拍手をしていただけたと思っています。

制作としての困難な仕事をしながら、こうしたスザンナを演じられたことは、本当に驚異的です。

本当におつかれさまでした!ありがとうございました!

 

まだまだ書きたい事がありますが、まずはソリストたちへの思いを書かせていただきました!