扉                     中田紀子

 

巻かれていた温かいものをほどき

そのちいさな手はおし開けたのだ

最初の扉を

扉のむこうに何があるのか知らないまま

 

まぶしさと笑顔が待つ

やさしい扉

一瞬水を掻く手がとまどう

拒絶の扉

 

  最初の扉はそれでも

  そっと開けられるのだ

 

巻きつづけた数十年の糸をほどき

わたしは近づいている

最後の扉に

その扉をおし開けるのはわたしではない

 

  けれどもかならず開けられるのだ

  おおきな避けられない手によって

 

その扉のむこうを

見たひとはいない

最後の扉は誰にもきづかれずに

たしかなスピードで用意されるのだろう