もう1年以上前になるが、私はTinderで知り合った変態のおかげで、念願のストリップ劇場を体験することができた。
※ちなみに後日談だが、この記事は公開してすぐ変態ご本人に見つかってしまい、なぜか「嬉しくて泣きそう」と感謝された。1年後にちゃんと連絡もくれた。
8月某日。
この記事を読んで浅草ロック座に行ってきたという友人から、「渋谷の道玄坂にあるストリップ劇場に興味ない?」とお誘いがあった。
私は「ある!」と即答し、友人と、友人の友人(既婚者男性)と3人で、渋谷に集合した。
無論、友人の友人とは初対面である。
初対面の異性とストリップ劇場に行く経験を2回もするとは思わなかったが、彼はストリップ劇場に詳しいようで、
「ロック座を劇団四季とするなら、道頓堀は地下アイドルのライブって感じ」
と説明してくれた。
道頓堀。
そのナニワ感あふれるネーミングを形どったネオンを、私は偶然見かけたことがあった。
何で渋谷に道頓堀があるんだ?と気になり、すぐに検索してストリップ劇場の存在を知ったのだった。
公演は1日4回あり、私たちは17時30分の開演時間に合わせ、劇場に到着した。
タバコの匂いが漂う入り口で3千円を支払い、中に入る。
建物は古く、1階のバーコーナー周りの壁には昔のポルノのような雑誌の切り抜きが貼られていて、昭和感がすごい。
地下へ続く階段を下り、扉をそっと開ける。
すると、既にステージで全裸の美女がポーズをキメて拍手が起きていた。
え、何でもう始まってるの…?!
呆気に取られながらしばらく立ち見をしていると、音楽が鳴り止み、踊り子は「ありがとうございました!」と言って舞台から捌けていった。
「前の公演が押してて、いま終わったっぽい」
友人の友人が小声で教えてくれた。
適当すぎワロタ。
踊り子が捌けると客席が空いたので、3人並んで後ろの方に座る。
キャパは40~50人だろうか。
以前行った浅草ロック座より狭く、ステージが近い。
ステージから花道が伸びている構成はロック座と同じだが、この花道さえ取り払えば、アングラな劇団が公演をしている下北の小劇場みたいな雰囲気だ。
しばらくすると、先ほどの踊り子が水着のような衣装に着替えて、再び出てきた。
客席の右側の通路におじさんがずらりと列を作っている。
どうやら踊り子の撮影会が始まったらしい。
500円払えば、劇場のデジカメで踊り子と一緒に写真を撮り、あるいは踊り子単体を好きに撮影し、あとで印刷したものを受け取れるシステムのようだ。
踊り子は客とタメ口で会話をしながら、ポーズや衣装(上は脱いでもいい)のリクエストに応えていて、その距離の近さがさながら地下アイドルのライブである。
行ったことないけど。
撮影タイムが終わると踊り子は捌け、今度は裸に半被だけを羽織って再び登場した。
花道の先の円形ステージで、セクシーに寝転ぶ踊り子。
ゆっくりと回転を始めるステージ。
最前列の客が、半分に折った千円札を踊り子に渡していく。
お札を胸の谷間に挟んで受け取る踊り子。
お、おぉ…
これは確かに、私がロック座に行くまでに思い描いていたストリップのイメージだ。
すごい距離感。昭和感。
ステージが一回転すると、踊り子は捌けて行った。
ここ”道頓堀”はどうやら、踊り子ひとりにつき着衣で踊り→脱いで踊り→撮影タイム→おひねりタイムの計約30分でワンセットらしい。
踊り子は5人いるが共演することはなく、ワンセット30分をそれぞれが好きにプロデュースしている雰囲気だ。
5人が入れ替わり立ち替わりずっと出てくるので、開演時間は一応設定されているが、ぶっちゃけ何時に行っても同じである。
入れ替え制でもないから、一度入れば一日中いることも可能。
続けて3人の踊り子を鑑賞し、「やっぱりロック座の方がショーとしてしっかりしてるし、女の子もあっちの方が可愛い気がするなぁ」とおっさんのような感想を抱き始めた頃。
4人目の登場曲で、私は度肝を抜かれた。
🎵君はキラキラ輝いて 長良川のアユみたい
この曲…なんだっけ…
🎵君のことを考えるだけで 胸がギュウギュウ飛騨牛
気持ち込み上げる ゲロゲロゲロロ下呂温泉
思い出した。
岐阜出身の漫才師・流れ星の『岐阜ミーチャンス』だ。
車掌風のコスプレをした彼女は、楽しそうに踊っている。
この曲、私がお笑いフリークだから知ってたけど、大してヒットしてないよな。
え、めちゃくちゃお笑い好きな子?
岐阜ミーチャンスが終わると彼女は捌け、今度はセクシーな衣装に法被を羽織って出てきた。
ステージの上で彼女が後ろを向いた瞬間、私は目を見開いた。
法被の背中には、ラインストーンで縁取られた「岐阜」の文字が輝いている。
奇人か?
奇人なのか?
それとも普通の演出に飽きて、何周目かでたどり着いたやつか?
🎵岐阜を制するものは日本を制する
次もまた、私の知らない岐阜ソングに合わせて彼女は楽しそうに踊り続けた。
こんなコミックソングから、どうやってエロい雰囲気にもっていくのだろう?
興味津々で見つめていると、彼女はそれはそれはナチュラルに、シームレスに、股を開いて見せた。
すげぇ…!!!
プロだ…!!!
最後のおひねりタイムでは、完全に私に目を合わせて手を振ってくれて、危うくファンになりかけてしまった。
トリは、タイムテーブルが崩壊していたせいで、劇場に入った瞬間少しだけ見ていた美女。
(後で知ったが、香盤表を見ると彼女はトリではなくトップバッターだった。17時30分の公演は、なんとフライングで始まっていたらしい。開演前に始まる公演。聞いたことねぇ)
本公演イチの人気者と思しき彼女は、おぱんちゅうさぎを模した衣装をまとい、おぱんちゅうさぎの曲に合わせてオリジナルのダンスを披露した。
2曲目はAKBのヘビーローテーション。
彼女はポーチから10枚ほどの多種多様なパンツを取り出すと、なんと客席に投げた。
そしてパンツをキャッチした客に、曲に合わせて振り回すよう煽り、ほぼ全裸で、全力でヘビーローテーションを踊り始めた。
湘南乃風の客がタオルを振り回す要領で、パンツをブンブン振り回す客。
汗だくで息を切らして踊る彼女。
会場全体を包む一体感に、私はなぜか感動していた。
もはやエロさは1ミリも感じず、なぜ彼女は服を着ていないのだろうと不思議に思い始めていた。
曲が終わると、人気者な彼女の長い長い撮影タイムを見送り、私たちは劇場を後にした。
「自分の出番があの子の後だったら嫌だなぁ」
私は友人たちに、なぜか演者目線で感想を語っていた。
むかし演劇をやっていた頃を思い出したせいだ。
ルックスや才能で勝てないなら、アイデアで目立つしかない。
自分なら何の曲で、どんな衣装を選ぶだろう。
なるべくエロから遠いものがいい。
寿司職人の格好をして『スシ食いねェ!』で踊るのはどうだろうか。
昭和感たっぷりのストリップ劇場で、創造力を刺激された私は、来ることのない未来に想いを馳せていた。
<終>