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「10年前、私、何回かタクヤの家に泊まりに行ってたじゃん?でも何もなかったから、この人ゲイなのかなとか本気で思ってた時期があって」
離婚のことは聞けなくても、自分たちのことなら、聞けた。
「え、何それ笑」
「…私あの時、タクヤのことけっこう好きだったんだけどさ、私のことどう思ってた?」
言っちまったー!!!
言い終わった後で、心臓がバクバク音を立て始めた。
タクヤはあっさりと答えた。
「付き合いたいと思ってたよ」
!!!!!
あぁ、勘違いじゃなかった。
喜びと安堵と、10年前に言ってほしかった未練の入り混じった感情で、少し苦しくなった。
おい、10年前の私よ。
タクヤはちゃんと好きでいてくれたぞ。
「え、じゃあ何で?」
「覚えてないの?海苔子が初めて俺の家に来た日のこと」
「…?」
「二人で飲みに行った帰り、初めて俺の家に来てくれて。こっちとしては泊まっていくもんだと思ってたのに、海苔子は終電だからって走って帰っちゃって」
「…そんなことあったっけ?」
「俺めちゃくちゃショックで、もう駄目なやつじゃんこれと思って。それから何も言えなくなった」
すっかり忘れていたが、話を聞いているうちにそんなこともあったなと思い出した。
でも、それだけ?
それだけ!?
ガラスのハートすぎやしないか!?!?
「多分、突発的に行ったから何も準備してなくて、慌てて帰っただけだと思う」
「いやー、あの時に言ってほしかったよ」
「でもその後も何回か泊まったし、バレンタインも手作りしてあげたじゃん。そんなの勝ち確じゃない?」
「一回断られてるからさ」
「断ってないよ」
「いやいや笑」
なんだこの会話。エモい。
やっと答え合わせができた。
私の勘違いではなかった。
あたたかい気持ちのまましばらく歩いていると、タクヤは突然こう言った。
「じゃあ、今から付き合う?」
…!?
この時の彼は、だいぶ酔っていた。
私が「いやいや笑」と濁すと、路上でキスされそうになった。
「待って。無理」
私は冷静だった。
もうタクヤに対する恋愛感情は、1ミリもない。
ただ、付き合いたいとは思わなくとも、結婚相手としては、よいのではないか…?
このままの友達同士みたいな結婚生活は、案外すんなり思い描けるような気がした。
「また来月、誕生日の時に話そう」
「…わかった」
そうして少し歩くと、私の家に着いた。
「じゃあここで。送ってくれてありがとう。また連絡する」
「こちらこそありがとね。おやすみ」
家で一人になり、あらためて今後のことを考えた。
10年前に両思いだったけど付き合えなかった人と、お互い色々経て再会し、最後には結ばれる。
仮にそれが実現したとしたら、なんと美しい物語だろうか。
恋愛感情こそないが、そんなものはどうせ遅かれ早かれなくなる。
であれば、お互いのいいところも悪いところも理解している10年来の友人と結婚する世界線は、意外と幸福なのではないか?
酒の酔いが覚めていくにつれて、私はその美しい筋書きに、酔い始めていた。
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