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「息子がXX大学に入ったって、母親の友達に嘘吐いてたんだよね」
タクヤは自身の学歴に軽いコンプレックスがあった。
本当は私の出身大学に入りたかったと、再会して間もない頃に聞かされてもいた。
息子の学歴を詐称をする母。
やべぇぇぇ…
ほんで住所を詐称してたお前も、完全にその遺伝子継いでるぞ?
「それが発覚して以来、あんま母親と仲良くないんだよね。でも、子供の頃から『パイロットはいいよ』って言い聞かされて育ったから、パイロットを目指したのは完全に母親の影響」
「お母さんの写真ある?見たい」
タクヤのぱっちりした目と高い鼻をまじまじと見て、お母さん綺麗な人なんだろうな、と思った。
そして「ちょっと古いやつだけど」と前置きして見せられた母親の写真は、彼にそっくりな、目鼻立ちのはっきりした美人だった。
その日は土曜日で、タクヤは美容院の予約があると言って昼頃に帰って行った。
ほとんど眠れなかった私はちゃんと寝ようと布団に潜り込んだが、タクヤの香水の匂いが残っていたせいで興奮して眠れず、あらためて彼との今後について想いを巡らせた。
そして、結論づけた。
いま、無理に付き合う必要はない。
どうせ彼は数年後、訓練で海外へ行ってしまう。
私が3年以上付き合った元カレと別れた原因は、その人の転勤にあった。
遠距離恋愛は向いてない。
この宙ぶらりんな関係を続けながら、タクヤが帰国して副操縦士になれたタイミングで付き合えばいい。
年齢的にも今はまだ若すぎるが、その頃には結婚も現実的になるはずだ。
うん、それがいい!!!
今思えば能天気すぎて笑えるが、当時の私は本気でそう考えていた。
そうして私たちの、付き合う一歩手前の曖昧な時期は、信じられないことに1年以上も続いた。
毎月欠かさず食事に行き(相変わらず全奢りだった)、週に3回は電話をして(半分以上は無言だった)、それでもあなたのことは好きだよというオーラを小出しにしようと、バレンタインは手作りし(後にも先にもこの時だけだ)、彼の誕生日は盛大に祝った(その日だけは私がお金を払うことを許された)。
家に泊まりに来てほしいと言われ、一軍の下着を身につけて行ったこともあったが、本当に何も起きなかった。
手を握ることさえなく、ただシングルベッドで一緒に眠った。
だから何回か泊まった。
同時進行でこっそり別の人と付き合ったが、心から好きになることができず、すぐに別れた。
タクヤが私に恋愛の話を振ってくることはなかったので、何があっても「聞かれてないから言ってないだけ」というスタンスを貫いていた。
タクヤが海外に行くまで、こんな日々が続くのだろうと信じて疑わなかった。
ところが、社会人2年目が終わろうとしていた頃。
いつも通り会社で仕事をしていると、デスクの内線が鳴った。
「お伝えしたいことがあるので、今から総務室に来れますか?」
人事課長だった。
え!私、何かやらかした???
仕事中にTwitter見てるのバレた???
緊張しながら総務室のドアを開けると、人事部長と人事課長が横並びで座っていた。
そして、私が着席するや否や、こう告げられた。
「4月1日付けで、大阪支社・XXX編集部への異動を命ずる」
頭が真っ白になった。
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