旧帝大院卒、外資系コンサル勤務、29歳。
名前はツカサ(仮)。
顔が私の元彼に似ていて、要はタイプだった。
そして、
<年上が好きです!>
プロフィールにはそうあった。
単に年上のせいだろうか。
ツカサは顔の見えない私に積極的で、マッチした直後からたくさんメッセージをくれた。
ちょうどその時期、私は体調を崩して心身ともに参っていたため、彼から届くメッセージをどこか心待ちにしていた。
<いま熱があってしんどいから、もっとしんどかった話を聞かせて>
私が布団の中から送ると、彼はこう返信してきた。
<昔、元カノが僕の部屋で首吊ってたことあります!(存命)>
エピソードつよ…
<あと、半年前まですごく結婚願望の強い年上の女性と同棲してたんですけど、3回浮気されて別れました!>
笑ってしまった。
きっと優しい子なのだろう。
2週間後。
すっかり回復した私は、平日の夜にツカサと飲みに行くことになった。
実物のツカサは長身で痩せていて、少し声が高く、中性的な雰囲気をまとっていた。
中華料理屋に入り、酎ハイを飲みながら彼の経歴を尋ねる。
新卒で入った会社でずっと働いているというツカサが、大学院を出てすぐにコンサルを目指した理由が気になっていた。
「実家がXX(某地方)で食品会社をやってるんですけど、」
ツカサは大学を卒業したら親の食品会社を継ぐつもりでいたが、まさかの父自身がそれを反対した。
理由は「今はいいけど、この先何十年も続かないと思う」というもの。
やがて父は定年を迎え引退。
現在は父の従兄弟が代表を務めているが、この従兄弟がポンコツなため、実際は父の兄が裏で全て牛耳っているという。
「僕はやっぱり会社を継ぎたくて、いま壮大な計画を企てているんですよ」
ツカサは真剣な眼差しで言った。
「どういう?」
「きっとこのままいくと、会社はあと10年くらいで潰れます。破産申請したその時がチャンスなんです。外部の人間が堂々と会社に入れるようになるから」
「破産した時に、ツカサ君が企業コンサルとしてお父さんの会社に入るってこと?」
「そういうことです」
「なるほど。でも10年ってだいぶ先だね」
「あとはもう一つチャンスがあって」
「うん」
「会社を牛耳っているおじさんが死んだ時ですね」
お、おぉ…。
韓国ドラマかよ。
「おじさんは今おいくつ?」
「80歳なんですけど、これもあと10年くらいかなって。だから今はその時のために、コンサルで修行中の身です」
私の頭の中で、梨泰院クラスの主題歌が流れ始めた。
Netflixの関係者よ、彼の話をドラマ化してはどうだろう。
多くの外コンがそうであるように、ツカサの激務っぷりは異常なものがあった。
年俸制で残業代は出ないにも関わらず、早朝から深夜まで、土日も含めて狂ったように働いている。
残業が月150時間を下回ることはないという。
「キツくない?」
「目標のためにやってることなんで、全然」
「ドMなの?」
ツカサは恥ずかしげもなく、真顔で答えた。
「かもしれないです!」
私は「ドMかもしれない」と堂々と言ってのける彼に若干引きつつも、中性的な見た目と裏腹に壮大な復讐計画を企てる主人公感に、興味を惹かれていた。
店は混んでいたため、2時間で追い出された。
ツカサが奢ってくれたので「私が払うからもう1軒行こう」と誘い、近くの適当な居酒屋に入った。
「首吊ってた元カノの話を聞いてもいい?」
私が尋ねると、彼は「もちろん!」と言って話し始めた。
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