昔、友人宅におよばれした時のこと。


旦那さんが食器を洗っていた。

普段、家事とかしないそうだ。

でもね、彼、お皿なんか洗ってなかったんだよね。

逃げていたんだ。



その時のお客さんは、いろいろ事情があって女性ばかりだった。


彼は、あんまり社交的な性質じゃない。

女性に囲まれて喜ぶようなタイプでもない。


誠実で、まっすぐで、シャイで、そして、奥さんをとても大切にしている人だ。



多数の女性に囲まれて、奥さんが楽しんでいるのを知っていて、それをかなえてあげたくて、でも自分には居場所がなくて。

逃げたかったんだと思う。あの場所から。

よくある、「タバコ買ってくる」って言って、夕方まで戻ってこないようなケースね。


でも、逃げてしまったら、奥さんの楽しみを奪ってしまうかもしれない。

だから彼は、逃げることもできなかった。


かわりに、お皿を洗うことで、その場から逃げようとした。



なんだか、悲しいな。

相手を大切に思っているから、お客さんを呼ぶことにも同意して。

居場所がないなと思いながら、ただ、

 「奥さんを楽しませたくて。」

それだけで、そこにいたんだろうな。

なれない皿洗いをしながら。



でも、彼は、満たされていなかったと思う。

どうしたら、自分が楽しいと思えるのかすら、彼自身、多分気付いていない。


奥さんにも、気付いてもらえていないかもしれない。

もしかしたら、

 「人が来た時ばっかり良いかっこして!」

と思われたかもしれない。


相手を大事に思って、自分にできる限りのことをしているのに、理解しあうことも、満たされることもできない。

すれ違い。

せつな過ぎる。


でも、これは二人の問題であり、私が関れないことだ。

私ができることと言えば、

 「きっと理解しあえるはずだ。」

そう、信じることだけ。

それが、すごくもどかしかったが、信じ続けた。


じきに子供が生まれて、子供中心の生活になり、なんとなくこの問題は棚上げされた。

でも解決したわけじゃない。

彼が社交的になるなんて想像できないし、自己主張ができるようにはなかなかならないだろう。

それは、長男長女の定めかもしれない。(彼は長男。)


そのうち、再燃するんだろうな。
でもその時も、私はじっと、見守るつもりだ。

 「大丈夫。この二人は、理解しあっている。いずれそれを意識し、実感できるようになる。」

そう信じるだけだ。