月の()(ばく)を はるばると
旅の駱駝(らくだ)がゆきました
金と銀との(くら)置いて
二つならんでゆきました

金の鞍には銀の(かめ)
銀の鞍には金の甕
二つの甕は それぞれに
(ひも)で結んでありました

さきの鞍には王子様
あとの鞍にはお姫様
乗った二人は おそろいの
白い上着(うわぎ)を着てました

(ひろ)い沙漠をひとすじに
二人はどこへゆくのでしょう
(おぼろ)にけぶる月の()
(つい)駱駝(らくだ)はとぼとぼと

砂丘(さきゅう)()えて()きました

(だま)って越えて()きました

 

 

 

  詩の考察

王子さまとお姫さまが、月の輝く広い砂漠、はてないシルクロードをらくだに乗って、とぼとぼと歩いている情景。

メルヘンのような世界を想像すると、夢が広がっていいかなと思います。

 

 

  詩の誕生

大正12年、『少女倶楽部』の3月号に発表。加藤まさお25才の時のものです。

病気療養のため、毎年夏になると房総の先端、御宿(おんじゅく)海岸で過ごしていた加藤は、その海岸の砂丘で見た幻をヒントに、12年の正月、東京の自宅で一晩でこの詩を書き上げ、3月発行の『少女倶楽部』に自筆のさし絵とともに詩を発表しました。

加藤は大正から昭和初期に叙情的な挿絵画家として人気を博していた人です。

 

 

  曲の誕生

作曲した佐々木すぐるは童謡の普及活動もしていたので、自ら主催する普及のための講習会で「月の沙漠」を用い、教育現場での音楽指導用の教本『青い鳥楽譜』と呼ばれる楽譜集にも、この童謡を収めたことから、最初のころは音楽教育の中で使われていたようです。

それが、昭和2年(1927)NHKラジオで放送され、大ヒットしました。

その後も童謡として長く歌い継がれ、世代を超えて支持される歌の一つとなっています。

 

 

  ラクダの像

波打ち際の近くの砂浜に <月の砂漠記念像> があって、王子さまとお姫さまが2頭のラクダの背に乗っている像があるそうです。

    

私は見に行っていないので写真だけですが、等身大の大きなラクダのようです。

でも、歩いていて突然砂浜に等身大のラクダが現れたらびっくりするでしょうね。

 

現在はすぐ後ろに14.5階建てのリゾートマンションが建ち並んでいるようで、それまた更に違和感のある別世界でしょうね。

 

     海側から見たもの。   (新聞より転載)

 

 

 

  さばくの<さ>に注意

「さばくの さ を<砂>でなく<沙>にしたのは、さばくは水が少ないので、この字がとっても気に入って使ったんですよ。」と本人が語ったと書いた本もありました。

漢和辞典によると、<沙漠>は砂浜、水ぎわ のこととあります。

 

 

  難しい解釈もある (^^;)

「王子と王女は夫婦、らくだは人生、ふたつのくらは職業、二つのかめは財産、という風に置き換えてこの詩を読み直すと、加藤が考えていたことがよくわかる。らくだにまたがり、宝の山=幸福を求めて、はてしないシルクロードを歩いているような素晴らしい感じになります。」

「金の甕と銀の甕というのは実はお金と食べ物のことで、それをもってとぼとぼと歩いていくのが人生」

なんて書いてある本もありましたが、エライ先生方は深読みするものですねぇ…(^^;)

 

またこんな指摘もありました。

遊牧民は水を運ぶのに革袋を使う。

金属製の甕は中に入れた水が煮立ってしまうから。

金の甕、銀の甕はありえない。とか。

 

どの詩も深読みしたい人はいるものですが、私はこの詩は素直に、子供たちへの異国情緒あふれる夢の世界の詩、でいいのではと思っています。

子供の心に戻って、素直にイメージをふくらませて、異国情緒を感じてうっとりと我を忘れて別世界を夢みるような情感を歌いたいと思うのですが・・・。

 

 

 

やっぱり歌曲ってすてき!

の。